前略。

阿鼻叫喚なう。


「ってツイッ●ーがあったら呟くんだろうなぁ・・・」


そうリアルで呟いた私の言葉はいつもとは違い声が低い。
ゴーストタウンとなって人気の全くない街を遠い眼で見つめる視点も高い。
現実から目を逸らしたくて仰いだ夜の月がいつもよりも近く感じられて涙があふれそうだ。上を向いて歩けない。


「うっわ・・・俺に胸が生えてる・・・・」


視点を元に戻すと真顔で自分の乳を揉み倒す女の人。
それは私の友人でもあるレディの姿かたちをしているが、予想が当たっていれば全くの別物だ。


「ちょ、ちょっと!私の胸揉まないでよ!!撃つわよ!!!?」


銀髪に青い眼に少し涙を浮かべて、宣言した直後にほぼノータイムでレディを撃つダンテ。
赤いコートこそいつもの通りだが中身はまるで違う。双子の入れ替わりトリックなどではなくて。

っていうか女言葉を使うダンテとか最高に気持ち悪いですね。
早く家に帰って記憶をなくすまで眠り続けたいです。


「ちょ、おま!待て待て待て待て待て!!おまえ中身レディだよな?当たったら死ぬぞ!!」

「チッ・・・・ああもう!身体が入れ替わるなんて最悪!!
 なんでよりによって私がダンテの身体なのよ!まだの身体のがよかったわ!!」

「なんつーか・・・この場合、精神が入れ替わってるのかなぁ・・・うーんどっちだろ。
 ま、いずれにしてもあの悪魔を倒さないとどうにもならないんだろうけどさ。」


この漫画みたいな(っていう表現は実際に漫画でしか聞かない)展開は悪魔の仕業。悪魔って便利ですね。
悪魔退治の依頼を受けた双子を手伝う為についてきて、別件からの依頼で来ていたレディと鉢合わせして。
獲物の奪い合いが始まったその隙に悪魔が現れて・・・・ごらんの有様だよ!だから喧嘩してる場合じゃないって言ったのに!!


はあああああ、と口の端から溜息を洩らす私にレディ(?)とダンテ(?)の今にも取っ組み合いを始めそうな動きが止まる。

レディとダンテの大きな四つの瞳には物憂げなバージルの顔が映っているが何度も言うが中身は違う。
そう、よりによってまさか私がバージルの身体に入ることになるとは、自分でも心底驚いている。


「ブッハハハハハハハハハハ!バージルが、バージルが大人しいこと言ってやがる!!」


ひいひいと涙を零して地面を叩くレディの中身は恐らくダンテだろう。
普段の彼女だったらこんな下品な行動はしないし、自分の乳も揉みしだからない。

・・・・・・・・・・・・・くそ!ちょっとあの爆乳を好きにできるっていうのは素直に羨ましいな!私女だけど。異性愛主義者だけど。


「あなた、もしかして中身は・・・・?」


そう指をさすダンテも平静を装っているが口の端がひくひくと痙攣している。中身はきっとレディ。
でなければ女言葉を使ったりまともなことを言ったりしないと私は信じている。二人を。

黙って頷くとレディ(ダンテ)の抱腹絶倒ぶりが更に加速した。おい誰か早くアイツを殴れ。
あ、でもこの場合はダメージはレディの身体に・・・ち、ちくしょう。どうすれば。


「い、意外と冷静ね・・・・・・」

「・・・・・・・・こっちに来てからびっくりするの、慣れたし・・・・でも、」

「でも?」


言えない。足の間の違和感にぶっちゃけ泣きそうだなんて言えない。

っていうかレディもきっと同じものを感じてるよね?平気?平気なんです!?
あとこの入れ替わりびっくりするくらい誰得だよね!?私まったく嬉しくないんだけど!!

ギャーギャーと再び言い争いを始めるレディとダンテを制止しようと伸ばした手のすぐ横を何かが飛んでいく。
全身を走る悪寒に思わず身体が膠着し、それでもぎぎぎと油をさしていない機械の動きで発生地点を振り返る。


「う、うわーお・・・・・」


うわぁ私の顔ってあんな表情もできたんだ。

何かを投擲した姿勢で、私の貧弱なボキャブラリーでは表現のできない、敢えて言うなら鬼相を浮かべる私の顔。
その意味するところは・・・ああきっと他の二人にも分かっただろう。恐ろしくて口にもしたくないけど。


「貴様ら・・・いつまで俺にこの恰好をさせるつもりだ・・・・・?」


うわぁ私の声ってそんな恐ろしい声も出せたんだ。


地獄の底を這う亡者の声よりも恐ろしい声に射抜かれて、私達はただ黙って何度も頷くことしかできなかった。












「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


たん、たん、たん、と進む私の足は夜の瓦礫の中でも軽やかだ。正確にはバージルの足だが。

道が悪いのにちっとも息切れしない。
かろうじて残っている街灯は少なくて視界も悪いはずなのに、昼のように明るく見える。


(すごい。これがバージルの見ている世界なんだ・・・)


ダンテも同じ半魔で双子だからきっと同様なんだろうなぁと思いながら踊る様に跳ねていく。

いつも二人が戦っている姿を後ろから見て、あんな風に動けたらどんなに気持ちいいだろうと考えてはいたけれど。
さっきと変わらない場所を歩いているはずなのに全く別の世界を歩いているみたいだ。


(ま、それでも中身は私だから戦えるはずもないんですがね。)


例の悪魔はレディ(ダンテ)とダンテ(レディ)に任せて私とバージルは別行動だ。もとい安全な場所に逃げるともいう。
この配置に自分で鬱憤を晴らしたいバージルは相当の不服をもらしていたけれど、私の身体では戦えないことに変わりはなく観念したらしい。
実際は人間の身体ではあの魔刀を抜くことすら危ないらしいからどうしようもないんだけど。


まぁあの二人、特に怒り狂った今のレディなら確実にあの悪魔を仕留めてくるだろう。確実に。必要以上に。

だからもうすぐ戻ってしまうんだろうなと思うとちょっと寂しいという余裕すら出てくる。
今だけしか味わえない優越感にすっかり浸っていると、続く足音が聞こえなくなってたことにはたと気付く。


「あっ・・・バージル・・・・」


私の後ろを歩いているはずのバージルの姿、もとい私の姿を探す。

もしかして引き離してしまったのかとひやりと汗をかいたが少し離れたところに私の姿を見付けた。
今のバージルと会うのはまるで姿見の鏡を見ているようで何だか妙な気分になる。

うん、見れば見るほど残念な姿かたちをしていますね。

若干の自己嫌悪に浸っていると、視線の先のバージル(私)が壁に手をついてそのままずるずると座りこんでしまった。
普段は絶対に見せない弱った姿にすっかり仰天してしまい、慌ててその傍らに駆け寄って片膝をつく。


「ちょっ、バージル!?ご、ごめん調子にのった!!」


そうだった今のバージルはあの私の身体なのだ。
ついはしゃいでしまったけれど、まさか普通に歩いているだけなのにこんなにも差が出てしまうとは。

いつもバージルが足手まといを見るような目で私を蔑むけどその理由が分かったような気がします。


「・・・・・・鈍い。」

「さ、サーセン・・・なにぶん一般人な上に運動神経は最下層のレベルなもんで・・・」

「俺の顔で謝るな。気色が悪い。」


ぴしゃりと私の言葉を切り捨て、差し出していた手を乱暴に払う。
たぶん私の力では全力なんだろうけどいかんせん、バージルの身体だから全くダメージを感じない。

そのままふらりと立ち上がる歩きだすがすっかり肩で息をしているような有様だ。


「バージル、待って、」


その手を掴み(自分の手を掴むなんてやっぱり妙な気分だ)、抵抗される前に抱き寄せて向かい合うような形で持ち上げる。
近くなった私の顔についた目がこの上なく大きく見開かれているのを見てなんだか苦笑してしまった。


「な、貴様!!」

「こっちのがきっと安全だよ。バージルの身体すごく頑丈だしね。
 たぶん私の体重程度だったら持ち上げてても全然辛くないんじゃないかなぁ。」

「ッ下ろせ!貴様・・・!!」

「いやいや、ほら待って。私の顔でそんなに怒らないで。」


しばらく蹴られたりひっかかれたりして暴れていたが、疲れたのかすぐに抵抗がなくなってしまった。
その間ずっと自分の体重を持ち続ける羽目になったけれど全く腕は疲れていない。
それどころか控えめに言っても軽くないはずの私の体重を支えることすら重くない始末だ。

ダンテが私を抱える時、気軽にやるけど本当に簡単にできるんだなこれ・・・今度からは遠慮なく利用するか。
ああいややっぱり駄目だ。この年で病気や怪我でもないのに人に運ばれるのはさすがに恥ずかしい。

え?今の状況?まぁ、自分は抱える側だし抱えてんの私の身体だし・・・細けえことはいいんだよ。


「すごい。本当にバージル達って力持ちなんだね。
 これなら買い物袋を持つのだってラクチンだろうに・・・羨ましいなぁ。」

「・・・・・・・・・・の身体は、重い。」

「ああ、あらゆる意味でね。」


キリッと返答しながらもう一度バージルの身体を抱え直し、瓦礫の道を歩く。


「―――体中に鎖を巻きつけられて海底を歩かされているような気分だ。」

「そ、そこまで言うか!ひどい・・・・」


いや、まぁ確かにバージルの身体になってからの劇的な変化は私も思わず感動してしまうレベルではあるのだが。


「貴様は、いつもこんな思いをしているのか。」

「え?ええー・・・うん。まぁ・・・・・でも、そんな風に感じたことはないなぁ。
 生まれた時からずっとその調子なんだし、ああでも戻った時がちょっと怖いね。
 バージルのこの身体、すっごく快適だから。ちょっと羨ましいなぁ。」

「俺の顔でそんな笑みを浮かべるな。気持ちが悪い。」


へらへらと笑うと、すぐさま頭に軽い衝撃が走る。
自分の身体だって言うのに結構容赦がないですね。バージルさん。


「どうせならバージルもレディの身体と入れ替わればよかったね。
 そうだったらまだ少しはマシだったんじゃないの?レディは人間だけどすごく強いし・・・」


レディ⇔私、バージル⇔ダンテ、だったらここまで話もこじれなかっただろうに。

バージルは答えずに、ぼすりと自分(私)の肩に顔をもたれる。
滅多に見せない甘えるような仕草に、表面上では平静を保っているが内心では死ぬほど驚いている。


「バージル?疲れたの?寝る?」

「・・・・・・・・・・・・・・」


返事はない、けれど私の身体で疲れただろうと判断して再び歩き出す。

あの二人は今頃悪魔を見付けただろうか。
レディみたいな被害を被っていない私としては若干可哀想だが、まぁ倒されてもらおう。一生このままは困る。


「               」


耳元でバージルが何かを呟いた気がしたけれど、いつもより聞こえがいいはずの半魔の耳は何も拾わなかった。



















後日の朝、目を覚ますときちんと元の身体に戻っていた安堵したけれど少し残念にも感じてしまった。
足に若干の筋肉痛を覚えながらいつも通りに支度を済ませて階段を下りる。

事務所の屋根の上からは激しい撃ち合いが聞こえる―――のは恐らくレディとダンテの戦いだろう。
昨日の休戦協定を解いてレディがダンテに仕掛けたんだろうなと推測。


(きっとこの流れだとレディもご飯食べていくだろうし・・・えーと、4人分か。
 うへぇ、ダンテもバージルもただでさえ食うのに、買い出しにいかないとなぁ。)


みんなでご飯を食べれるのは嬉しいけれどそれを用意するのがレディの手が空いていない今、私だけだと思うと少し気が重い。
階段を下り終わってソファーを見ると、その無駄に長い足を組んでバージルが新聞を読んでいた。

・・・・いつも疑問なんだけどバージルって人間界の事件とかに興味あるの?キャラ付けなの?

一瞬だけこの人に手伝いを頼もうかと思ったけど、いつも面倒くさがって付き合ってくれないことを思い出して断念した。


「バージル、おはよう。さっそくだけど私ちょっと買い出し行ってくるね。
 レディとダンテが建物を壊しそうになったら仲裁してあげると嬉しいなぁ。」


頭上でガチファイトをしている、といっても慣れたものでいつも通りに外へ出ようとする。
しかし外へ出ようと玄関に手をかけるとバージルも隣に並んでいて、首を傾げてしまう。


「んー?バージルも外に用事?それともさっそく仲裁してくれるの?」

「――――付き合ってやる。」


一言だけそう告げるとバージルはさっさと外に出てしまう。
その言葉の意味を理解する前に慌てて外へ追いかけるとすぐ近くで待ってくれていた。
そしてその長い足を翻してすたすたと先に行ってしまう、が、少し違和感。


(そういえば、昨日はすぐに引き離しちゃったけど、ダンテもバージルもあんまり引き離された記憶がないな・・・)


隣には並ばないけれど、手を伸ばせばすぐに届く距離にバージルの背中がある。
私はいつものペースで歩いているつもりだから、つまりこれは、

少しペースを上げて歩幅を広げて、バージルの隣に並ぶ。


「バージルとダンテは優しいなぁ。」


そんなの、言ってくれないからずっと気付かなかったよ!


私のへらへらと笑みにバージルは少しだけ不機嫌そうに私を見て、結局は何も言わないまま横に並んで二人で歩いた。







































→END
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あとがき。
悠様のリクエスト(DMCの三人の精神が入れ替わるネタ)でした!リクエストありがとうございました!!

さ、サーセン!いやすみません!!ぎゃ、ギャグになりきれなかった・・・・!!
無難な感じにまとめてしまったすみません。
序盤は頑張ってるような痕跡が見られるのが更に痛々しいですね。ハハッ(あの声
すいませんほんと八坂にはこれが精一杯のいっぱいっぱいです・・・・!!

あとレディも交えて、そしてなんとなくバージル夢みたいな感じになってしまった・・・
いや、ダンテも気を遣ってくれてるということにはもちろん気付いているんですけどもごにょごにょ

バージルがあの時呟いたのは、きっと「あの愚弟と貴様が入れ替わらなくてよかった」とかそんなニュアンスのものだと思います。

関係ないですが私のツイッターは忍たまのことばかり呟いてますフヒヒサーセン。
忍たまが好き過ぎて生きるのが辛い。五年生に疎まれたい・・・あ、雷蔵以外で。雷蔵にまで冷たくされたら心が折れる。

では、30万打どうもありがとうございました!


2011年 9月10日執筆
(C)八坂潤



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