まずいことになった。


「・・・・・・・・・・」


私の目の前では家康さまと三成が一触即発の状態で睨みあっている。
もちろん「やめて!私の為に争わないで!!」なんていう甘ったるいシチュエーションではないことは明らかだ。

というか、巻き込まれて私たぶん死ぬんじゃないのコレ。
ああ、リアルに死亡フラグの立つ音が聞こえる。


巻き込まれる前にどうやって逃げるか・・・あ、そうじゃなくて戦う前に何とか止められないかとか頭を絞って考える。


というか、そもそも何で家康さまはこんなところにいるんだろう。

ここは石田軍の城の近くの柿の木の前だ。
私はこの木に引っ掛かっていたのを、行軍帰りでまだ仲の良かった三成と家康さまに拾われた。懐かしい。

それ以来、私は時折この木の近くで元の時代に戻る手掛かりを探している。
三成は「たまには外の空気を吸いに行け」と大谷さまにせかされて、非常に嫌々ながら渋々と付いてきてくれた。

しかし家康さまは?わざわざ敵陣になってしまった城にまで来る理由がわからない。


「えーと、あの、二人とも、落ち着いてくれると、嬉しいな?」

「目障りだ!貴様は黙っていろ!!」

「そうだ、三成。ワシとお前がここで戦うとも巻き込んでしまう。」

「そんなことはどうでもいいッ!!」


どうでもいいですか。
・・・・・・・まぁ、わかっちゃいたけど目の前で当然のように言われると結構落ち込みますね、コレ。


「家康・・・貴様、この城の近くにまで何をしにきた?答えろッ!」

「まぁ落ち着いてくれ。ワシが用があるのはだ。」

「は・・・・?へ?」


ぎろり、と三成が私を蛇のように睨みつける。
明らかな敵意と疑惑の眼差しの首を何度も振って否定した。


「ちなみにワシが勝手にに会うためにこの柿の木の近くにまで来ただけだ。
 だからを責めてやったりはしないでくれ、三成。」

「いや、いやいやいやいや、何で家康さまが私なんかに用があるんですか?
 あと早くこの場を離脱しないと私は二人の争いに巻き込まれて確実に死ぬんですけど!!」

「その事なんだがな、」


刀を構えて睨みつける三成さまをよそに私ににっこりと微笑みかける。
太陽のような笑顔ですが、すぐ近くの人の顔が怖くて直視できません。


「、ワシのところに来ないか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」


今、何て言った?

さすがの三成も予想外だったらしく目を一瞬きょとんとさせたのを見逃さなかった。私はもっと間抜けな顔をしていただろう。
それでも家康さまがこちらに近付こうとしたのを、三成が間に入って阻止する。


「家康、貴様何を血迷った事を、」

「っていうかこのタイミングで言うの!?ほら、三成さまめっちゃ見てます!すっごく怖いです!!」

「三成に怯えるのなら心配するな、ワシが守ってやる。」


あ、うっかりときめく音がした。

不覚をつかれた素敵ワードに思わず固まってしまう。
しかも恥ずかしげもなく慈愛に満ちた笑みで言いやがったよこの人、本当にすげえ。


「い、家康さますごいですね・・・女子が一生に一度は言われたい殺し文句をあっさり使っちゃうなんて。」


三成さまには絶対に無理ですよね、と内心で続ける。
不意打ちでどきどきした胸を押さえながら視線は迷子のように彷徨ってしまう。


「茶化すな、。ワシは真剣だぞ。」

「いや、えっと、その、嬉し恥ずかしと言いますか、そんなどきどきするようなこと初めて言われたので。」

「貴様!私よりも家康の味方をするつもりか!!?」

「三成さまはちょっと黙っててくださいまじで。」


少しだけ形成されようとしていた甘い空気が一瞬で砕け散る。
でもそのおかげで冷静になった頭で考えてみる。


「で、。先程の返事を聞かせてくれ。」


私は今、家康さまのところに来ないかと誘われている。
徳川家康が天下をとったことくらいは小学生でもわかる―――もっとも、ここは武将オールスターズ状態でよくわからないけれど。


「お気持ちはすっっっごくありがたいんですけど、私はここに残ります。
 家康さまにはたくさん友達がいるけど、三成さまには友達が少ないですから。」


てっきり三成には怒られると思ったけど、意外にもこちらを見つめているだけだった。


「そもそも私には家康さま直々に誘っていただけるほどの価値なんてありませんよ。
 元の時代でも一般人だったし、こっちではただの一般人以下の役立たずです・・・やっべ自分で言ってて落ち込んできた。」

「そうでもないけどなぁ・・・」


三成のスキを突いて私の頭を労わるように軽く叩く。
いつもの三成とは違う、優しさを感じる手加減にちょっと泣きそうになった。


「―――お前もワシのことは許さないか。」

「いや、そうじゃなくて・・・私、秀吉さまの事を抜きでも三成さまの傍に残りましたよ。
 ご飯食べさせたり布団に押し込んだりしないと、また倒れたり―――死んでしまったら悲しいです。
 家康さまはそんな事ないじゃないですか。」

「そう、だな。」


一瞬だけ家康さまが瞳を伏せて、少しだけ寂しそうな表情をしてみせた。
そして後ろを向くと、ずっと待機していたのだろう忠勝さまに乗って遠い空へと旅立ってしまった。

ある意味いつもの光景とも言えるが、違和感を覚えて三成を見る。
いつもだったら逃げてしまう忠勝さまと家康さまにブチ切れてるはずなのに、何故か押し黙ったままだった。





































→ちからつきた
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2011年 5月15日発掘 八坂潤


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