元の時代に帰った夢を見ていた気がする。
そこには家族も友達も居て、あんなに焦がれた日常が待っていた。
私を腫れもの扱いする人間も居ないし、しなければならない事も多くてむしろ忙しいくらい。なんて幸せ!
けれど、望んでいたはずなのに何かが足りなくて落ち着かなかった。
それはちくちくと胸を刺して、絶えず仲のいい人の中に居ながらも寂しいと感じていた。
その誰かに呼ばれた気がして、振り向く前に手を引っ張られた。
「あ、れ・・・・?」
手を伸ばしたつもりが、布団の中で仰向けに寝ているだけだった。
現実には首から下がまるで麻痺してしまったかのように動かない。力も入らない。
視線を動かすと、三成さまが泣き出す寸前の子供のような顔で私を見下ろしていた。
「。」
「みつなり、さま・・・・」
夢の中のあの声が聞こえた。
ああ―――そうか、私はこの人に会いたかったんだ。
せっかく元の時代に帰っていたのに、三成さまがいないのが寂しかったのか。
もう一度名前を呼ぼうとした瞬間に、いきなり視界が反転させられて心臓が跳ねる。
自分の顔が枕に押しつけられてから初めてうつ伏せにさせられたのだと理解した。びっくりした。
更にその上にのしかかるようにして相手の体重を感じ、何気なくしなやかな両膝で私の動きも完全に封じられた。
え?何これ?俗にいう馬乗り?ちょっと意味分かんない。
「み、みみみみ三成さま!?一体何?え!?」
「・・・・・・・・・。」
私の当然の疑問には答えず、背中を乱暴に剥かれて鳥肌がたった。
驚きのあまり声も忘れて固まるのを放置して、細い指が背骨をなぞっていく。
え?ええええええええええええええ何だこの状況!?ちょっ、なんか、いやだ!!
こんなんなら普段みたいに殴られるか脅されるかされる方がずっとましだ!
それに私も一応は女の子なんだし、全方位無関心男に限ってないとは思うけれど、こういうのはさすがに危機感を覚える!!
「ちょっ、ちょっと、三成さま?相手を間違えてません?間違えてるって!!
私、ですよ!?ほーら、色気もないし行儀もなってないって普段から罵られてる、可愛くないちゃんですよー?」
・・・・・・・・・・・・・なんっていうか、自分で言ってて落ち込むな、この台詞。
しかも自分で最後にちゃん付けしちゃっているのがまた痛々しさを煽るというか、なんというか。
そういえば三成さまに可愛いだのなんだの褒められたことはない、けなされたことは多々ある。
まぁどうせけなされた通りの容姿だから気にしていなかったけれど、何故だろう、今はちょっと落ち込む。
「――――貴様の、」
「へ?」
細い指が下の方から頸骨の一つ一つを確かめるように丹念になぞっていく。
なんか変な声が出そうになって、慌てて枕に口を押しつけて耐えた。うわぁ何だこれ!
緩慢な拷問に耐えながらも、普段とは様子の違う三成さまの言葉をじっと待つ。
何故だろう、この人は私に対してこういうプレッシャーのかけ方はしないはずだ。
こんな目に遭わされるのは初めてで、ぞわぞわと心臓が落ち着かない。
冷静になった頭でようやく、顔は見えないけれどもしかして三成さまは怒ってるんじゃないかと思った。
でも何に?思い当たる要素は―――まぁあるけれど、でもそれはじゃれ合いの範疇を越えていない、はず、
「貴様の背骨を手折る。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
え?何言ってるのこの人?
冗談だと思いたいけどこの鬼気迫るような雰囲気は本物だ。え?私何かした?
四肢に力を込めて暴れようとするが、どういう風に抑え込んでいるのかびくともしない。
ぶっちゃけ私よりも細い手足のくせにどこにそんな力があるんだ!不公平だ!!
「ちょっ、三成さま!?何で何で何で何で?わた、私、何かした!!?」
「――――――」
がりっ
と不吉な音が自分の背中の方から聞こえた気がして、すぐに信じられない痛みが襲ってくる。
三成さまに肩甲骨を強く噛まれたのだと気付くのにまた数秒かかった。あ、この人本気で私の背骨をやる気だ。
さぁっと顔から血の気がひいた。どうしよう、このままだと一生自由の利かない身体になる!
「人の質問には答えろよ!何でこんなことするの!!?
悪いことしたなら謝るから、ほんとごめんごめんまじでごめんなさい!」
「貴様が未来に帰りたいというのなら―――動けなくするまでだ。」
「へ?え?えぇ!?」
→ちからつきた
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
『盗めない宝石』の続編のつもりが、力尽きた。
背骨を手折るという表現が好きなだけです。
2011年 5月15日発掘 八坂潤