それが遠慮なのだと気付いたのはいつだったか。


「よしよし、よ。よくやったなァ。」


三成さまからのよくわからない書状を吉継さまに届けるという子供みたいな難易度のおつかいをしたところで、吉継さまに頭を撫でられる。
ただしそれは一般的な手で頭を撫でるのではなく、謎の力で浮いている数珠で私の頭を擦るのだ。

初めはこの年になっていい子いい子されるなんて複雑な気持ちだったが、今ではすっかりそれを受け入れている。
けれど最初は手で直接に頭を撫でていたのが、最近では数珠を使い、からかわれているのかと思ったが―――それが私への遠慮だと気付いたのは最近だった。

吉継さまは重い病を患っていて、包帯の下は醜い有様になっているのだと自嘲気味に笑う。
前に知らない人が肝試し気分でやってきたのを、布の下を晒し相手が腰をぬかしたところに頬を手で触れてやると、目に見えて青ざめた。
よく知りもしない癖に「病がうつる」と酷い捨て台詞を残して私達から逃げ出したのだ。


(この人は、私に病気をうつさないように気を使っているのかもしれない。
 前はそんな配慮なんて微塵も見せなかったのに、長く一緒に居るからだろうか。)


吉継さまを初めて見た時は、その異様な風貌に私も怯えたものだが今ではそんなこともない。
それに病気がうつるというのなら三成さまはとっくに同じ病になっているはずなのだ。
だが、差別と偏見が周囲の目を曇らせて誰もそのことに気付こうとしない。

こうして、あの柔らかい手ではなく固い数珠で撫でられるのも、多少は仲が良くなったことからの配慮だとすれば。
私は頭上の珠を両手で掴んで吉継さまに差し出しだ。


「吉継さま。私、これ、嫌です。」

「ヒヒッ・・・・犬のように頭を撫でられるのが嫌いか?ならば、」

「そうじゃなくて。固い数珠なんかよりも吉継さまの手で直接撫でていただいた方が嬉しいです。」

「―――――、」


ふわり、と浮いた腰が私の近くによって少ししてから包帯にくるまれた手が私の頭に触れた。
そして微かに躊躇うように左右に動き、久しぶりの感覚に目を細める。


「主も、マッタク三成と同様に変わり者よ。」

「えっ・・・いや、私、あそこまで変じゃないんで・・・・というか私は普通なんで・・・・・・えっ、ていうかどこが?」


賢くない自分の頭でうんうんと唸り――――そういえば吉継さまは三成さまを誉めるような時にも「変わり者」と言っているのを思い出した。
茶会の席で三成さまが庇った時にも同じ言葉を使ったという、ということは、これはこの人なりの誉め言葉なんだろうか?


「ありがとう、ございます。」


素直に礼を言うなりすればいいのに、吉継さまの方が世間一般的にはよっぽど「変わり者」だ。









































→おわり
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あとがき。
吉継なりのデレ。

  
2011年 1月6日執筆 八坂潤

 
 
 

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