「やれ、噂の張本人のお出ましよ。」

「・・・・・・・・・吉継さまもそれを言うんですか。」


蜂の巣を突いてやれば予想通りに顔を顰めて見せるのがまた愉快。
三成からの書類を両手に抱えて我が部屋に入り、自分の座る机の横に並べていく。
不幸や醜い我をおそれて誰も近寄ろうとはしないこの部屋を、物怖じせずに訪れるのは三成とくらいだ。

そしてその二人は今、三成がついにに寵を与えたのだと密やかな噂になっていた。


「違いますからね、もう何度言われたか分からないですけどまじで違いますからね。
 大体、三成さまみたいな美形が私の色気のない体を相手にする訳がないでしょうに。」

「しかしアレは外見の美醜に拘らぬ男。本当にそうかはわかるまいて。」

「そりゃ、そうですけど・・・・・」


布団の中で抱き合って眠っていたからだということらしいが、実際はそんな男女の関係になっていないとはすぐに分かる。
けれどこれで我が玩具をからかうネタとして使えるのなら惜しみなく使うまで。


「でも本当に、えっと、誘われたりはしたけれどそういうの、やってないし・・・」


むぅと我に頬を膨らませてみせるに、だがその言葉の意味に内心では軽い驚きを感じていた。
あの三成が床の中に他の人間を招いたと言うだけでも驚きなのに、まさか向こうから声をかけたりしていようとは。
行軍の最中、性欲処理の為に用意された女に一切の手を付けず、時間の浪費だからと女中から誘われても手を付けないあの男が自分から持ちかけるなど。

にわかに信じがたい話だが、はそんな下卑た嘘をつくような人間ではないし理由もない。
しらず知らずのうちに口角が上がったのを包帯の下でも隠せなかった。


「ぬしは本当に愉快ユカイ・・・我を楽しませて飽きさせはせぬ。」

「えっ、何でですか。なんか面白いこと言いましたっけ?」


本当に分からないとでも言うように首を傾げるをやんわりと無視し、手で数珠を弄ぶ。

――――本当にこの人間は我を楽しませてならない。
三成に今後どんな予想外の行動をさせるのか、予測が付かなくて面白い。
それを見届け楽しむためならば、こんな下らない世の中にも居座っている価値があろうというもの。


(も三成も、ほんに我を楽しませる生きた玩具よ。)


いつの間にか自分も彼女に何かを託してしまっているのだと、気付いたのはこの頃だった。








































→おわり
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あとがき。
玩具は分かりにくい誉め言葉。

 
2011年 1月9日執筆 八坂潤
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