「つまるところ、これはワシらの罪の形ではないかと思うのだ。」


世間は春。
満開の桜、昼休みの学校、入学したてのはしゃぐ学生達という日常を尻目に罪を告白する。
生温い風を頬に受けながら何気なく呟かれたそれは、すぐに学校の喧騒に呑まれて消えた。

隣にいるのは―――こちらでも目を患ったらしい、眼帯をした奥州の独眼竜の伊達政宗。
だが今はあの自慢の六爪を携えてはおらず、何の武器も持たないまさに丸腰の状態だが、それでいいのだ。

もうこの時代に武器を手に、常に刺客を警戒する時代は終わった。
身を守るための戦装束の代わりに学生としての身分を示す制服を着込み、軍議ではなく他愛のない話に花を咲かせる日常。


「HA!罪って何だ罪ってのは。俺ァ悪いことなんかしちゃいねえぜ。YOU SEE?」


端正な顔に不敵な笑み、今なら分かる英語交じりのこの喋り方。以前と全く変わりはなくて思わず笑みが零れる。
最も、世間一般にはワシと政宗は出会ったばかりだろうがその真実は違う。
ワシらは400年も前もこうして並んで遠くを見つめた―――その際は戦場だったか。


「だがあの大戦で真田幸村を殺したのは政宗、お前だろう?
 元親もまた毛利を殺し・・・そしてワシらには記憶があるが向こうにはそれがない。」


窓枠に頬杖を突き、視線を隣のクラスの方へと向ける。
きっと隣の教室では購買から帰ってきた元親がパンを机の上に広げている頃合だろう。

しかもそれは毛利の机で、耳を澄ませばあの静かな怒声が聞こえてくるようだった。


「殺された相手に記憶はなく、ワシらには記憶がある・・・まるで自分の罪を見せ付けられているように。」

「・・・・・アンタと石田と俺と真田を一緒にするな。
 俺らは最高のrivalで納得の行く形でやりあって、」

「―――そして真田を殺した。」


ぎろり、と戦のない現代においても以前と変わらぬ眼光がこちらを睨む。
それを静かに見つめ返しながら、再び窓の外の平和な世界へと目線を戻した。

ここには、戦がない。
以前のワシが何に変えても、自身を犠牲にしてでも望んだものがここにはある。

そう、あの時関ヶ原のあの場所で三成を殺してまで得たかった答えが、愛しい人間を犠牲にしてまで欲しかったものが、


「・・・・石田の野郎は相変わらずアンタが嫌いみたいだな。こっちでも何かしたのか?」

「まさか。もうワシは天下人ではない、ただの一般人だ。三成と争う理由はないしこちらも初対面だった。
 まぁ、クラス発表会で名前を見つけられた瞬間にこちらに敵意を向けられたときは懐かしさすら感じてしまったが。
 ・・・・だが三成自身も何故ワシを憎んでいるかは思い出せないようだ。やはり、向こう側に記憶はない。」

「だが、猿はどうも記憶があるみてえだな・・・今は真田の家に居候しているらしいが。
 アイツはこっちのことなんて全く覚えてねえくせに、俺達が話していると真田を遠ざけるように動きやがる。」

「ははっこちらでもあの関係は変わらないか。まるで親鳥と子供のようだな。」


ワシはまだ会っていないが、その言葉から容易に以前の2人の姿を思い出す。
向こうはこちらをどう思っているだろうか・・・直接的に戦ってはいないとは言えやはり、自分達を死においやった敵将か。


「―――で、アンタはどうするんだ。こっちでもrevengeを受けてやんのか?」

「いいや、何もしない。言っただろう?もうワシはただの一般人だ。
 三成を殺す理由なんて、もうない。できるのなら再び絆を結びたい。
 あの時のワシはそんな事、到底望んではいけない立場だったからな・・・」


視線を落とせば、箒を持った金髪の女生徒を手を振って見送る黒髪の後姿。
それを見つけてしまったら、すぐ隣の政宗の言葉などもう耳に入らなくなってしまった。

手持ち無沙汰にもう集められた桜の花びらを掃いているのは相手がちりとりを持ってくるのでも待っているのだろうか。
自制が効くほうだという自負はあるのに、それも彼女の前ではすぐに風に吹かれて消えてしまう。
逸る気持ちを抑えきれずに窓枠を握る手に力を込めた。


「・・・・・だから俺は、ってテメエ話を聞いて、」

「すまない伊達政宗。話は後だ。が下にいる。」

「あぁ!?テメエ、話はまだ、」


階段を使う、という選択肢を浮かべてはいたが身体はもう既に動いていた。
政宗の制止の言葉も聞かず窓枠から身を躍らせ、地面に難なく着地をする。

身体能力は生まれ変わってから衰えてはいるようだが、これくらいのことは難なくこなせる。
そんな事よりも、と着地の姿勢から立ち上がり視線を目的へ移す。


そこには、以前見たときと変わらない予想通りの驚きの表情を浮かべたの姿。

クラス発表会でその名前を見つけた時は眩暈がした。
見間違いようにないその姿に呼吸がはたとと止まり全身が総毛立つような錯覚。

400年前にワシが愛し、そして殺してしまった彼女が、今呼吸をして生きたまま目の前にいる。
たったそれだけの事なのに喉奥が何かで満たされて詰まり、幸福で眩暈がしそうだった。


「お、親方ァァァァ!そ、空から女、いや、男の子、っていうか、家康くんが降ってきた!!?」

「ふふっは相変わらず面白いな。しかし驚いてくれたようで何よりだ・・・ふふ」

「いや、これで驚かない人類がいたら逆に会ってみてえよそれは・・・ど、どうしちゃったのいきなり。」

「ん、の姿が二階から見えたからいてもたってもいられなくなってな。気が急いて思わず飛び降りてしまった。」

「・・・・・え!?なにそれこわい。」


驚愕から困惑、そしてワシの言葉に恥じらいへと表情を変えていく姿が愛おしく感じる。

くるくると表情が変わるのは生きている証拠だ。
最後に見た死に顔のように絶望に固定されたままのものではない。

以前にこの手で絞め殺したブラウスの下から伸びるあの首筋も、今はきっと触れれば脈を感じるだろう。


ふと、視線の先の渡り廊下に見えたものに、さりげなく移動して相手からを隠すように動いた。
こちらでもの身長はワシよりも低いからすっぽりと隠れてしまうだろう。

あの廊下を通り過ぎていった三成の目からも。


「・・・・?家康くん、どした?」

「いや、何でもないんだ。。」


それよりも、と続けて他愛のない話題をに振る。
相手の気を逸らせるように、そしてその意識をこちらに向けられるように、こちらを意識させるように。

昔のワシだったら真実を伝え、三成にを引き合わせようとしたかもしれない。
でも今はそんな考えなどさらさらなかった。ワシはが欲しい。

以前のような失敗はもうしない。

―――かつて人々の平和のためにと苦心し、自身の身を捧げた優しい徳川家康は400年前に死んだのだ。


「なあ、今度ワシと一緒に出かけないか?」

「・・・・・・・へ、え?」








































→おわり
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あとがき。
別に本編でも学生の年齢、というわけではなくこれは生まれ変わった上で学生という設定なので相変わらず具体的な年齢は決めてません。
皆さんの想像に任せてます。うーん、割と年齢を限定させるような描写は避けてるつもりなんですがどうかな。

いつもは、「うおおおおおお越前止まんねえ!!!!」→「リョーマくんしゅごい・・・//////」という感じに、基本的に筆が止まらないのですが。
何故か死ぬほど苦戦した上に死ぬほどまとまらないので没に。
別に三成との出会い編を書く予定など、ガチでありません(別にエイプリルフールのねたではなく
張り切ってタイトルは「suger sweet nightMare」にしようと思ってましたてへぺろ

基本的に私は白権現至上主義なんですが記憶ありの現パロなら黒権現がいいと思うんですよ。
だってもう以前と違って自由な立場だから誰かを思いやるばかりに自分を不幸にしなくてもいいもんね!

あと政宗も元親も生まれ変わっても眼帯してるんだから、前世と同じように運命をなぞっている、
つまりまた家康が主人公を殺すかもしれないっていう可能性を示唆したかったんですがびっくりするくらいに文章力が足りなかった。ざんねん。

 
2012年 4月1日執筆 八坂潤



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