ふわふわとしているような、この現実感のなさが、何度経験しても慣れない。


「――――――――、」


布団と薄い胸板に包まったままゆるゆると眼を開けると外はやっと明るくなり始めたという頃合。
早朝とも夜明けとも判別つかない時間の中で、何か声を発そうとして酷く自分が喉が渇いていることに気付いた。

まあ、原因は分かってるんですけどね。

枕元に水差しと湯呑みが用意されているのを見付け、手を伸ばしてみじろぎするが絶妙に届かない。
かといってこれ以上派手に動けば私に抱きついている物体が目を覚ましてしまう訳だが、


「・・・・・・なんだ、騒々しい。」

「・・・・・・・・・・いや、わたし・・ひとことも、しゃべってないん、ですけど。」


そこまで考えてからすぐ近くで聞き慣れた不機嫌そうな声が聞こえた。
それに対して若干掠れてしまった声で答えると布団が動き私の身体ごと三成さまが身を起こす。

結局起こすのなら最初から取りに行ってしまえばよかったと少し後悔しながら、布団の上で座らされたまま手を伸ばすがこれまた微妙に届かない。
この緩い肉の拘束を外してくれたのなら届くのに、けれど今の私にそれを振り払うだけの体力はない。
それでも生まれたてのハムスターのような力を振り絞り、ぐぐぐと力を込めて身体を伸ばそうとするがやはり届かない。

突然気まぐれで超能力が芽生えないかなーとか考え始めた時に殊更に白い腕が伸び、水差しを攫う。
これはもしかして水を注いでくれるのでは、という淡い期待は相手の幽霊のように白い喉で嚥下されて吸い込まれていった。


「・・・・・・・・イヤミか。」

「うるさい。私も喉が渇いていた。」

「いや、ぜったい、ぜったいに!・・・けほっ、わたしのほうが!必要と、してるから!!」


そこでやっと自分をぬいぐるみのように腕の中に閉じ込めたままの三成さまの顔を見る、いや睨む。
美白を極めてしまった頬には贅肉の欠片もなく、それを高い鼻と薄い色の唇、そして長い睫毛の瞳が完璧に配置されている。
けれどそれでも白い肌色はほんの少しだけ桜色に染まっていて、ああ今日は調子が良さそうだなと少し安心してしまう。

当の本人は私の懇願に一瞥しただけで、再び水差しにその薄い唇を寄せた。
まるで猫科の動物が水を飲むような姿に目を奪われて一瞬だけ呼吸が止まる。
そして女性のように肉付きの薄いくせに固くて体温の低い胸板に頬を当ててはあと嘆息した。

この分だときっと私の分なんて残してくれないだろう・・・三成さまのせいだっていうのに。


「どうした。ただでさえ面白い顔が更に崩れている。」

「おいおま、その面白い女をさっきまで、さっき・・・・っ」


そこから先の言葉は自分の首を絞めるだけだと判断できる程度には私は大人でした。

全てを諦め、もう一度眠りについてこの渇きをやり過ごそうと目を閉じるとすぐに細い指に顎を掴まれた。
びっくりして目を開けるとすぐに唇が合わせられ、驚きの声は水の流れと共に喉奥へと吸い込まれていった。
間近にある長い睫毛と色素の薄い瞳に、初めてでもないくせに再び心臓が止まりそうになる。この人は美しすぎる。畏れ多いほどに。


「・・・ふぅ、は・・・・・ぁ、」


口移しされたと理解して何とかそれを飲み込んでほっと息を吐こうとするが、唇は離れない。
そのまま気が抜けて隙だらけになった舌を絡め、どうすればいいのか相変わらず分からない私の口の中で言いようにそれは暴れた。
本人の激しい気性を移したかのような動きにはいつまでたっても慣れなくてただ目を回してしまう。


「ん、・・・も、・・・・ぅ、う・・」

「・・・・・・・・ふ、」


ひとしきり口内を貪って満足したのか、最後に舌が名残惜しげに私の舌を撫で、やっと離れる。

途端にぜえはあと忘れていた息継ぎを再開し、なんとなく口元に手をやると濡れていて、せっかくの水分が零れてしまっていた事に今更気付いた。
ついでに恥ずかしさも蘇ってきて頬に熱が一気にのぼってくるのを感じて勢いよく顔を伏せる。


「ふ・つ・う・に・わ・た・し・て!!?何で湯呑みがあるのにそれ使わないの?湯呑み涙目じゃないですか!!」

「湯呑みをわざわざ取るのが億劫だ。それに、一刻も早く必要だったのだろう。
 ならばこっちの方が手間がかからずに早い。」

「・・・・・・・・え。それつまり私のせいなの?なにそれこわい。」


頭の悪い子供をたしなめるように諭されてもいまいち納得がいかない。
というか誰がいくかこんなジャイアン理論。一瞬でも謝りそうになった自分が飼い慣らされ過ぎてて怖いわ。

はああああああ、と自分の犬っぷりにヤケになってペットがそうするように自分の頭をぐりぐりと三成さまの胸板に押し付ける。
それに対し「犬か貴様は」と言いながらもちゃんと頭を撫でてくれるのはすっかりご主人様である。心得てやがる。
普段の荒々しい刀捌きからは想像もつかないような、慈しむような手付きにこちらから振っておいてなんだか気恥ずかしくなった。

そこで大人しくしておけばいいものを、この負けず嫌いの舌からは余計な質問を吐き出す。


「・・・・・あのさぁ三成さまはさぁ、その、何で、私を・・・えーと、その、抱いたり、するんですか。
 そんなキャラじゃないじゃないですか性欲とか死んでそうな感じなのに。食欲も睡眠欲も死んでいるくせに。」

「貴様が私をどんな目で見ていたのかは分かった。」

「いで、いでででででででで!ちょ、鼻、鼻が高くなっちゃう!!」


雪のように白い指が私の鼻を抓み、ぎりぎりと容赦なく上方へつまみ上げる。
それに引っ張られる形で私の顔も上を向き、あ、これあれだ釣りの雑誌の表紙とかでよくある図だ。しかも痛い。

唐突にぱっと手を離され、獲ったどー状態から解放されて痛む鼻を押さえながら相手を見つめる。


「や、でも、ほんとに私なんて全然ボンキュボンじゃないし、むしろキュボンボン?
 あとこういうの全くやったことがないから、その、よくわかんないし・・・」

「―――それはの処女は私が奪ったのだからそれは知っている。」

「お、おう・・・・?ていうかまたそういう、こと、うぉ」


良く分からないが三成さまが私を抱き寄せたまま再度横になり、満足気に息を吐く。


「私以外の人間にその肌を触れられていないこともな。」

「・・・・?うん。」


相手の不機嫌さからの気分の上昇の理由が分からないが、とりあえず私の頭に顎を乗せるくらいに機嫌がよくなった。
まるで気位の高い猫に甘えられているようで、なんだかこっちまで上機嫌になってさっきまでの言いたいこととかが鼻から空中へ溶けていく。

三成さまはテンションの上がり下がりが死ぬほど激しいっていうのは知っているけど未だにその調節のツボは時折よく分からない。


「・・・・確かには面白い顔をしている。」

「え?唐突?」


白い指が私の顎をすくい、じっと観察するように色素の薄い瞳が私を見つめる。
真摯な眼差しと必要以上の美貌のほぼ零距離直視は未だ私の蚤のように小さい心臓を竦ませる。

が、その前の台詞があんまりにもあんまりなので内心は若干複雑だ。
冷厳な学者が観察するようなこの眼差しも内心ではその言葉通りの感想を抱いているのだろう。自負はあるけど。


「だが、抱いている間は女の顔になる。」

「・・・・・・・・・・・・・・は?」

「普段は色香の欠片もないくせに、私の下で乱れる間は色を覚えた女の顔になる。」

「・・・・っ」


後半の言葉は古いが何を言われているのか、それが何を指しているのかくらいさすがに分かる。

いつもは眉間に皺をよせっぱなしの眉根を少し緩め、顎をすくっていた指を移動させて私の頬を何度も撫でた。
じりじりと炎が草を舐め尽くすそれを思わせる動きに何かを掻き立てられるようで、反射的に身を強張らせてしまう。慣れない。


「う、うっそだー・・・・」


この清廉潔白男がそんなつまらない嘘をつかないという事は重々承知だが、それでも苦し紛れに反論してしまう。
そう言っておかないとさっきの三成さまの言葉を認めることになり、つまりそれは、自分が痴女になってしまったようでいたたまれない。

結論。余計なことなんて聞かなければ良かった。

とりあえず恥ずかしさを紛らわすべく相手の顔を見ないように布団を被り直して目を閉じる。
さっきの言葉を忘れるためにもとっとと寝てしまいたい。頭の中にセーブ(記憶)される前にとっとと電源を落としてリセットしなければ。

うとうとと心地の良い睡魔に身を任せつつあると、急に首筋を何か冷たいもので掴まれて間抜けな悲鳴と共に一気に目が冴える。
そして猫を吊るし上げるように向かい合わされ、ばくばくと跳ねまくる心臓に手を押さえて張本人を見ると、

ああ言わなければ見なければと後悔した。


「は私が嘘を吐いたとでも言いたいのか?」


そこには美しい恋人の絶対零度の炎に燃える怒りの瞳があった。
さきほどまで穏やかささえ感じた秀麗な眉は跳ね上げられ、口端から覗く白い歯からはぎりぎりという幻聴が聞こえるようだ。

いや幻聴だと思いたい。

頭の中に「みつっなり♪スイッチ♪」という可愛らしい子供の声が流れた気がするがもう遅い。
ピタゴラスイッ●どころか私はとんでもない地雷を踏んでしまったのだと、嫌過ぎる確信に這って一歩分ずり下がった。

が、すぐに腕を捕まれた上に布団を引き剥がされて外気にと寒気に身体がぶるりと震えた。


「私が虚言など吐いていないという証拠を見せてやる。」


―――あ、これ死んだわ私。言ってる意味わかんないけどこれ死んだわ。

真珠色の犬歯を剥き出し口を半月状に歪めて冷たく笑うこの男が恋人だなんて誰が思おうか。私もちょっと疑わしくなった。
怒りを宥めるための言葉、もとい命乞いもいくつかは浮かんだがきゅっと口を閉ざしてせめて罰が軽いものであるようにと切に願う。

殴られるか、それとも殴られるか、もしくは殴られるか。


白目でありもしないものを追い始めた私を向かい合うように抱き上げて、布団から出たらすぐに床へと腰を下ろした。
とりあえず部屋の外まで引きずり出されて公開強制露出ということはないらしい。
空も白み始めた中、それだけは本当によかった。でないと理性が粉塵爆発する。

でも運ばれてきたのは文机の前という謎の場所で不安よりも疑問符で頭の中が一杯になる。
何をされるのかが不安で薄い胸板に背中を擦り付けると、細い腕が伸びて机の上に何かを置いた。

それは私が普段使っている鏡。
当然ながら裸身のまま寄り添い合う私達の姿が見えて全力で逃げ出したくなった。
けれど常々疑問なことに私よりも細い腕一本で楽々と押さえ込まれてしまう。ほんとこの強力はどこからやって来てんだ私も欲しい。


「ごめん。すっげごめんなんかすっげ嫌な予感がするんですけど本当にごめん。」


身体が動かないのならせめてと、口は全力で謝罪の言葉を生産し首を叱られた犬のように俯かせる。
せめて自分のこんな無様な姿は見たくないという精一杯の抵抗だったが気に入らないようで、もう一方の手が私の顎を掴み上を向かせる。

鏡の向こう、顔に全力で逃げたいと表示している自分と目が合った。そうだね私も逃げたい。


「言っただろう?証拠を見せてやると。がどんな表情をしているのか―――その目でしかと見届けろ。」

「・・・・?・・・・・っ!!!!!!?え、ちょ、え?ほんとに?え?そういう?」


三成さまの意図する事をようやく理解して更に抵抗を強めるが、身体はもちろん顎は万力で挟まれたようにぴくりとも動かない。
鏡の中の私はすっかり怯えて涙目の状態で、正に蛇に追い詰められた蛙状態だなと思ってしまった。ここテストに出ますよ。

そんな考えも束の間、全体的に色素の薄い外見に反して熟れた果実のように赤く、そして長い舌が私の首筋を這っていく。
明らかに情欲をなぞるようなそれに口からは小さな声が漏れ、それが自分のものとは思えないほどに甘いものだったのだから尚更いたたまれない。

最後の砦と言わんばかりに目を閉じてやると明らかに背後から不機嫌そうなオーラが発せられるのを肌で感じた。
首筋から舌が離れたと思うと今度は瞼に体温の低い唇が落とされる。
それでも門を閉じたままでいると、催促するように睫毛に添って薄い舌が這わされた。まるで捕食されてるよう。


「・・・・ぅ、え・・・・」

「。」


それでも頑なに目を閉じたままの私に、恋人の聞いたこともないような優しい呼び声が囁かれる。
聞き分けのない子供を嗜めるような温かみのある声だが、この状況と目を開けたら見えるであろう三成さまの形相からはただ嫌な予感しかしない。

っていうかそんな優しい声が出せるのならば普段から惜しみなく使うべきである。
今こんな状況だってのに素で驚いて目を開けそうになってしまった。なにこれ超こわい。


「いや、ほんとちょっと待って落ちつきましょうよ、だってもう、人、起きる・・・」

「だからその媚態を他人に晒すかどうかはの心掛け次第だな。」

「まてその理屈はおかしい、だってそんなんそっちが諦めれば済む話じゃないですか、ね?」


自分では暴れさせているつもりだった手は、気付けば添えるようにひんやりとした腕に触れている。
それを良いことにきっとあの白雪の指が私の首筋から胸元、そして腹から下へとどんどん下がっていることに泣きたくなった。
けれど身体はすっかり降伏宣言をしていようが負ける(?)つもりはなく、ますます頑なに目を閉じてやった。

頼むから諦めて欲しい。

謝罪を紡いでいた唇もいつの間にか矯正が漏れるのを恐れてただ噛みしめるばかりだった。
足は無意識に何もない畳を力なく蹴っている。開かされたままの、その姿勢で。


「―――今すぐ目を開けろ、。自分の姿から最後から目を逸らさずにいられたのなら少しは優しくしてやる。」

「ッ少しかよ・・・諦めるとか、そういう選択肢は・・・・いぃっった!!?」


私の言葉を中断させるように首筋に思いっきり歯を立てられ身体が跳ねる。
痛みと言い知れぬ感覚に粟立つその箇所を宥めるように長い舌が往復する。

ただそれだけだというのに、陸に揚げられた魚のようにはくはくと口元が無音で喘いだ。


「ああ、それともう一つ教えてやろう―――私は女としての表情もそうだが、私のせいでが怯える顔も悪くはない。」

「と、とんでもねえ!!」


この恋人との将来に不安を抱かざるを得ないS発言に本気でおののく。
お前のものも俺のものだなんて言うジャイアンだなんて生易しい。こいつ生粋のサディストだった。
っていうか恋人にそんな一面、趣向があるなんて・・・薄々気付いてたけど知りとうなかった!知りとうなかったですまじで!!

もはや私の意志なんて関係ないと言わんばかりに首筋を扇情的に舌がなぞり、目を瞑っているせいか大仰に反応を返してしまう。
再開される行為にもはや雨天中止の文字はないようで、抗議の為に開いた口からは砂糖のように甘ったるい声が漏れた。


「・・・・・・・っは、ぁ・・・・ぅ、」


もう駄目だ、これは勝てない止められないと白旗を振る代わりに恐る恐る目を開ける。
真っ先に視界に入ったのは、自分の思い通りになった事に少しだけ機嫌を直したらしい三成さまの顔。

そして正面の鏡には、見たことのない表情を浮かべた自分が映っていた。







































明日も使えない無駄知識を貴女に→
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
あとがき。
ねえ知ってる?ホオズキの花言葉は「偽り」って言うんだよ?(あの声

ついったで誰かが昔に「えろい事(ぼかした表現)すんのは相手の感じてる顔が見たいからだ」っていうのを思い出して。

主人公は三成とはもう恋仲になっているので普段は敬語だけどふとした時に素が出る仕様。そしてそれを三成は咎めない。

閃乱カグラの続編が「閃乱カグラBURST」っていうんでゴッドイーターみたいでかっこいいじゃないですかやだーって思ってたら、
まさかの「バースト」が燃えるとかそっちの意味ではなく胸の「バスト」が由来だと聞いて、
相変わらずここの公式は頭がおかしいなと感動してしまったのでそれにあやかってカラッとしたエロを書きたかったんです。

まぁ結局は中途半端なものになっただけなんですがね!!!

閃乱カグラのエイプリールネタの男版の発売、あたしいつまでも待ってる。

ゴッドイーターバーストを最近始めましたー。
ソーマくんに神機で頭をごりごりされたいです・・・Oh・・・・でも彼にはSっ気が足りない。ディ・モールト!ディ・モールト残念!!!
褐色肌銀髪碧眼フード美少年ツンデレと私のツボに濃縮雷槌で生きていくのがつら。

文章が絶賛スランプですオエーッ!公式様そろそろ燃料くださいソーシャルはやらないんで。
あとついったの夢垢でフェイトパロの三成夢を考えたけどやっぱり欝ENDだった。誰かこの残念な脳みそを何とかしてください手遅れです。


2012年 5月6日執筆 八坂潤
inserted by FC2 system