北条のお城ののどかな雰囲気とは真逆に、どこか陰湿ささえ漂うかつての豊臣の繁栄の名残りの城。
全く記憶はないし来たこともないはずなのに、それでいて部屋の間取りなどはすんなりと頭に入ってくるのがどこか不快だった。

しかしそんな居心地悪さ天元突破なこの城にもそこまで居心地の悪くない部屋があった。


「こんにちわー大谷さまいますかー?」

「・・・・・やれ、何度ヌシは部屋の訪れ方を注意されれば気が済むのか。」


すぱーん、と勢いよく障子を開けば間髪入れずに飛んでくる数珠をきちんと額で受け止め、じくじくと痛むそれを押さえながら部屋に入る。

城の中でも人のあまり近寄らない奥まったところにある大谷さまの部屋。
いつ訪れても薬臭いこの部屋は薄暗く陰気くさい、がなんとなく居心地が良かった。
かんべさまもコタも近くにいない時、ここにはお世話になる―――あのトンガリ頭の傍にいるのは全く気が進まない。

いつものように執務をする大谷さまの近くにすとんと腰を下ろし、じっとその姿を見つめる。
普段はこんなにあからさまに熱視線を送ったりはしないが今日は特別だ。目的がある。


「よ、そんなに見つめられてはさしものワシも穴が開いてしまうなァ。」

「もし開いたら塞いてあげますよ。で、大谷さま大谷さま、すいません家捜しさせてもらえませんか?」

「・・・・・家捜し?」


執務のために動かしていた筆を止め、頭巾の下からじろりと胡乱な目を向けられる。
迫力のあるそれも、そもそも呪いか病が移るだのと言われているこの人が、私は怖くなかった。

その包帯の下にある爛れた肌を見たときはさすがに慄いたが・・・でも不思議と、それを疎ましくは感じなかった。

あらゆる時間の無駄を嫌うあのトンガリ頭も、誰もが嫌がる大谷さまの世話は自ら文句も言わずに進んで行うらしい。
その点だけは評価してもいいんじゃないかと思うが、しかしその優しさが気まぐれでかんべさまを解放するとかそんな方向に傾かなければ意味がない。


「あ、大丈夫ですよ。私、軍略とかよく分からないし、それが目的ではないです。」

「ならばどうしてこの病に毒された腹を探ろうとする?掴めるのは・・ヒヒッ腐肉ばかりよ。」


そもそも、とずいと近付いてきた白頭巾に思わず腰が引ける。
それは病が移るという根も葉もない恐怖ではなく、相手が男性であるという恐怖から―――自分から接触しておいて酷い話だがこればかりは無理だ。


「我は三成の味方ぞ・・・そしてヌシの慕う大事な大事な暗をいびるのも我。
 ヌシが暗をいじめるからという理由で三成を嫌うのであれば、我もまたヌシの『嫌い』ではないのか?」


ああ、言われてみればと気が付いた。
私のきょとんとしているであろう表情を見て、身体を震わせて笑う姿は枯れ尾花のよう。不気味な笑みだ。

これはきっと私が前にあのトンガリ頭に言ってやったことを指しているのだろう。
『何故私を拒む』と嫌悪感に粟立つ私の腕を掴みながら迫るあの痩せ男に言ってやったのだ。『貴方がかんべさまをいじめるからです』と。
それでもなお『に危害は加えていない』と食い下がろうとするあの男に私は更に言葉の剣を振るった。

『貴方だって、豊臣秀吉様にとってよくない人だからかんべさまが嫌いなんでしょう。貴方に危害は加えてない。それと何が違うんですか?』

そう切り捨ててやれば白い腕が力を失い、離れていくのに少しの罪悪感が沸いたが振り払うようにその場を逃げた。
私は自分の思った正しいことをそのまま言ってやったつもりなのに、どうしてこんなもやもやした気分にならなきゃいけないんだ。

あのトンガリと話しているといつもそんな、もやもやした気分にさせられる。だからもう最近は会話もあまりしたくない。


「ヒヒッ図星であろ?顔に墨でそう書いてあるわ。」

「・・・・・・・・・・いや、これはまた別件です。」


まあそれは置いておいて、と空を掴む両手で何かを横にどかす動作。気分の切り替え。


「・・・・・んー、でも言われてみるまでそうと気付かないくらい、私はあなたのこと、嫌いじゃないですよ。」

「―――――それは、」

「いやあのいじめるっていう理由でトンガリ野郎は好きじゃないんですがむしろ嫌いなんですが。
 でも、うん・・・何でだろう・・むしろ直接いびっているのは大谷さまなのに、どうしてかな・・どうしてイヤじゃないんだろう・・・」


なんでかなー。

自然ぽつりと呟いてしまったそれは、間抜けながらもしかし私の心情を雄弁に語るものだった。
私自身、別にこの人に特別よくしてもらった覚えはない。でも何故かかんべさまのようにいじめられたりはしなかったが。

だからといってそれで私はかんべさまをいじめるこの人を許したりはしないだろうに。


「・・・・・なんでかなー・・・」


その理由をもっと、もっと深く考えようと意識を潜らせようとするがそれを引かれた袖ではっと我に返る。
布を掴むその枯れ枝のような指の先では、いつもの嘲弄する光のない真摯な瞳の大谷さまが居た。
私をからかってやろうとするのではなく、何かを堪えるような―――この人にしては、珍しい表情だと思った。

この人は、あのトンガリ頭以外の理由でこんな表情もできたのか―――、


「もうよい。我が悪かった・・・どうせ探って得た宝の分別も付かぬ暗の飼い犬よ、好きにするがよいわ。」

「・・・・・・う、うん。あ、えっと、失礼します。」


何かがこみ上げてくるような気持ちだったのが、なんとなく霧散してしまって、そんな気持ちに仕切り直すべく頭を切り替える。
強く握れば折れてしまいそうな指が離れ、やっといつの間にか止めていた息を吐く。それは嫌悪感からではなく。


「・・・・・・で、どこ探していいんですか。」


キリッと語尾に付ける勢いの凛々しい表情で問えば、大谷さまは少し呆れたようだった。


「そもそも家捜しというのは、主の留守を狙うものであろ。」

「え、だってそんなのしたら感じ悪いっていうか犯罪・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・ヌシは一体何を捜している。」

「えー、それ言っちゃったら駄目なんじゃ、ウゴォフ!」


どうやら痺れを切らしたらしい大谷さまの数珠に頬を両側から強くプレスされて肉に食い込む。
そんなに痛くはなかったけどさぞかし今の私は女子としてあるまじき形相に変形していただろう。今更だが泣ける。


「ふひまへんふひまへんふひまへん!・・・・ぶっは!!」


ぐりぐりと攻め立ててくる珠を払いのけ、押し潰されてすっかり熱をもってしまった頬をさする。
もしこれ以上柔らかくなってしまったらどうしてくれよう・・・いや、むしろ引き締まるのか?痛いのに変わりはないが。


「いや、かんべさまの、カギ、ないかなって、思って。」

「ほう・・・あの暗めに探して来いと、そうお願いでもされたか。」

「うんにゃ、違います。これは私がかんべさまの為に何かできないかなーと思って勝手に考えただけで。
 あ!だからかんべさまを責めたらだめですよ責めたら!!怒るなら私に対してですからね!!!」


びしっと指をさして念を押してから許可をとったのをいいことにとりあえず押入れのふすまを開ける。
案の定、薬臭い布団しか入っていないのを中に乗り込んで暗闇を探すが特に手応えはない。

そんな私をどうやら止めるつもりもないようで、大谷さまが頬杖をついた状態で猫のようににやにやと笑っていた。
余裕ですと言わんばかりのその態度を見るともしかしたらここにはないのでは、と押入れを降りてその下の小さな襖を開ける。

――が、どう考えても書物や巻物が仕舞い込まれているだけでそれっぽいものが入っていそうなものは、


「あ。」


自分でも間抜けな声を出して、その隅にひっそりを息を潜めるようにして置かれている桐の箱を見つける。
いかにも大事そうに仕舞い込まれているそれに、確か桐の箱は高い木材だからよっぽど大事なものが入っているのではとうろ覚えの知識を探る。

つまりあそこにかんべさまの手錠の鍵が入っているのでは?

誘われるようにそれに指を伸ばし引っ張り出すと、薬とは違う木の良い香りが鼻をついた。
やっぱりと確信する。こんないい箱ならばさぞかし大事なものを隠しているだろう。開幕ほぼ直後で当たりをひくとはさすが私。


「大谷さま。もしかしてこの中ですか?」

「―――、」


ひゅっと先ほどまでのにやにやとした笑いはなりを潜め、かさついた唇から呼吸が一瞬途絶えたのを見逃さなかった。
鍵を入れるだけにしては少し大きすぎるその箱を、相手に制止される前にとっとと開いてしまう。

ぺかー!という脳内効果音とともに現れた箱の中身は―――鍵どころかお宝でもなく紙でできた鶴の山だった。


「・・・・・・・・・・・・・・・折り鶴?」


一つ手につまんでまじまじと観察するが、どう考えても何の変哲もないただの紙で出来た鶴である。
その紙も高いものであるように感じない安価なもの、ルーズリーフにでも使われていそうな羅線入りの色気のない白色ばかり。
別に鶴の折り方だってお世辞にも角が完璧にぴしっとした素晴らしいものだとは思わない。普通だ。たぶん私のほうがうまく折れる。たぶん。

箱の中身をさらってみるが探れども探れども紙の鶴の山ばかりで、ああこれはきっと千羽鶴なんだろうなと思った。
数が足りないように感じるのは途中で折っている人間が断念してしまったのだろうか―――大谷さまが折ったものでは、恐らくない。


「千羽鶴かぁ・・懐かしいなぁ、たぶん一度は皆やってみるけど途中で飽きて完成しないまま終わっちゃうんですよね、大体。」

「・・・・・・はて、どうであろうな。」


返ってきた言葉が平生と違い声色が随分としおらしいのを不思議に思いながらも、それをからかってやろうとは思わなかった。
むしろかんべさまにあんな手錠をかけたりメシウマ至上主義のようなお世辞にもいい性格をしてるとは思えない人なのに、この紙鶴を大切に保管している。
誰が見てもあまり価値があると思えないそれはこの人とって宝なのだろうか―――そう思うと、何かが救われるような心地だった。

底のほうに溜まっていた、恐らく鶴になる予定であったであろう紙の束から一枚取り出し折り始める。
飲食店にある紙もそうだが、折り鶴は誰かが折っているのを見ると無性にこっちも折りたくなるから不思議だ。
さすがに誰かが挫折した千羽になるまで手伝うつもりはないが、まあ一羽だけなら。


「この鶴は誰が?」

「さて、誰であろうな。」

「やっぱり願いは大谷さまの病気が治るようにとか?」

「はてさて、我は知らぬ存ぜぬナァ。」

「・・・嘘つき。こんなに大事に大事に仕舞ってるのに。」

「―――――、」


まあいいけれど、とどうあっても何も言うつもりがない大谷さまをほっぽって折り鶴を折る作業を再開する。
大谷さまがガン見しているのをひしひしと感じながらようやく折り終わると、自信満々に作成したそれは他のものとあまり出来栄えが変わらなかった。


「うーーーーん?この人よりももうちょっとうまく折れると思ったんだけどなぁ。こんなもんなのかな。」

「・・・・・・・・・。」


大谷さまは何も言わない。
さっきからどうも様子がおかしい、おとなしいのでこの箱を開けられるのがよっぽど嫌だったのかと少し罪悪感に駆られる。
でも普段だったら、本当に嫌だったら、私に数珠をぶつけてでも止めるのではと思ってしまうので、・・・・やっぱりよく分からない。

しかしそれは相手も同じく自分の感情をどうしていいのか、戸惑っているように感じた。この人にしては不思議。


「いや、でもこれよりはまだマシか・・・」


ひょいとつまんだそれは他の鶴に比べても群を抜いて出来が悪い鶴だった。
いかにも折り慣れてしませんというそれは、比較的安定した出来の他のものとはまるで違う、別の誰かが折ったものなのではと思わせる。
かといって他にそんな残念な出来の折り鶴は見かけないからこの人も私のように無性に折りたくなっちゃったクチだろうか。わかるわかる。


(しかし失礼な話だけど、この人にこんな真似をする人がいようとは・・・)


病人だからというのを差し引いても一般的には意地が悪い部類に入るであろうこの人にこんなことをする友人がいるとは思わなかった。
友達と呼べるのは同じく交友関係の狭そうなあの三角巾頭だけなのではと思っていたが、どうやら違ったらしい。
あの三角コーン頭がこんなみみっちいことをやる性格だとは思えなかったし、そのもう一人とは誰なのか―――まあ、その割に途中棄権してるけど。

微妙な空気が漂い、どうしたものかと思っているとすぐ近くに聞き慣れた大きな足音。


「おおい、刑部ここには・・・・」

「おおおおおおおおおおおおおお!!!かんべさま!かんべさまキタコレ!!」


襖が開いて薄暗い部屋に風が通った瞬間、声の主を判断して一目散にその太い首に飛びつく。
私の猛犬のような突撃も揺らぎもせずにその熊のような巨体で受け止めるこの人こそ私のかんべさまである。だいしゅきホールド。

長い髪で彗眼をかくし、岩から削り出されたような顎と大木をねじり合わせたような筋肉、そして少し湿っぽい匂い。
その厚い胸板にぎゅうぎゅうと頬を寄せると心の底から安堵するような心地だった。

この場所こそがこの城において私の魂の唯一休まる場所!男の人だけどかんべさまとコタと北条のおじいちゃんだけは別腹!!

慌てたような声は無視して、いつものように首に手を回したまま枷の上の狭い場所に腰掛けると観念したように息を吐いた。
世界広しといえどこの大きな手枷を椅子代わりに使うのは私だけかもしれない。すごく狭いのでほぼ寄りかかっている状態だが。


「、お前さんその挨拶は止めろと何度、」

「うおおおおおおおおおかんべさま!!うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

「・・・・・聞いてないなこりゃ。」


ハイパーくんかくんかタイム!と言わんばかりに全力でかんべさまの胸板をハスハスしている私にはその声などもはや遠い。
他の人が何と言おうと安心するかんべさま成分、別名:カンベニウム(特許申請中)を補充しやっと張り詰めていた息を吐く。


「ったく刑部の部屋を荒らしたのはお前さんか?あーあ、これは紙の鶴の山か?一体なんでったってこんなことを、」

「暗よ、その飼い犬めが我が部屋にヌシの鍵を探しに来たわ・・・犬を躾けるのも現飼い主の役目であろ。」

「なにッ!!?・・なんてったってそんな命知らずなことを、」

「いやー、かんべさまのお役に立ちたくて?」


てへぺろ☆とこつんと頭に手を当てて片目を閉じてみせる。かんべさまの目にはダイヤモンドダストも生温い極寒風景が広がったであろう。


「んー、でも真面目な話、かんべ様のその手枷が外れたら、自由になれるでしょう。
 そうしたらここから逃げて、また北条のおじいちゃんのあの城に帰りたいな。」

「・・・・、」

「逃げ出して遠くまで行ったらさ、きっと私達のことなんて・・かんべさま一人くらいなら諦めてくれますよ。
 軍師なんてここには大谷さまもいるし毛利様っていうのもすごいんでしょう?
 私なんてかんべさまのおまけみたいなものだし、きっと大丈夫。コタは、きっと佐助さんっていう忍者がいるらしいから大丈夫だよ。」


それにこの城から逃げ出せたのなら、きっとあの夢ももう見なくなると思うんだ。

その言葉はそっと口に含んだまま首に回した手に少し力を込める。
これ以上この人に迷惑をかけしまわぬように。もう十分に与えられているのだから。


「・・・・・その我を前に逃げる算段とはいい度胸よ。」

「あ。」


やっべ、とすっかり遅いが口元に手を当てる。

まただ。敵だというのにこの人の前だとなんか気が緩んでしまう。
しかし罅割れて色も悪い唇からはそれ以上の追及の言葉はなく、やっぱり様子がおかしいなと首を傾げる。

包帯を仮面代わりに伏せられた表情は、やはり読めないが瞳には常ならぬ揺らぎがあるように見えた。


「もうよいわ、暗。さっさとそれを連れてどこかへ行きやれ。」

「え、あ、いやさすがにその引っ張り出した箱はしまっていきますよ。悪いですし。」

「よい、構うな・・・ほれ、暗。とっとと行かぬか。」


さもなければ仕置きぞ、と浮遊し始めた数珠に巨体が少し揺れてぶっきらぼうな了承の言葉とともに私を抱えたままUターンする。
背中越しに私がじっと見つめる中で、一度も大谷さまは私の方を見ようとはしなかった。

私はその枯れ枝のような体に何か声をかけようとして、だが訪れた時よりも痩せたように感じる体は器用に足で閉じた襖の向こうに消えていった。






















「――――今更、これが出てきやるとは。」


我ながら女々しいものよ、と新しく折られた鶴をくしゃりと握り潰す。
しかし病に侵された身体に入る力は乏しく、懊悩する額のような皺がよっただけだった。


(これも捨てねばならぬナァ・・・記憶の揺り戻しがあるとも限らぬ。)


間違っても記憶を取り戻してしまわぬように。

その為に、不安材料は処分してしまわなければならない。
紙でできたものなのだからてっとり早く火にくべてしまおうか。そうすれば全て灰になり何も残らない。


包帯に覆われた掌の上、紙の鶴が所在なさげにかさりと揺れる。

しかし気付けばそれを再び箱の中に戻して、その上から蓋を被せて箪笥の一番下に仕舞い込む。
何かが溢れてきそうになるのを、この胸の内でとぐろをまく感情も、全てその中に封じ込めてしまいたかった。

念の為にその引出しに鍵をかけてから、懐に潜ませていた手枷の鍵の輪に繋げて一纏めにする。
そしてそれを再び胸の内に隠すと、鍵が一つ増えただけなのにまるで重石を衣服に忍ばせたようだった。

もしもこの鍵が自分の手元から離れてしまった時は―――どうなるのだろうか。


『私はあなたのこと、嫌いじゃないですよ。』


三成のことは蛇蝎の如く嫌うというのに、自分に関してはそうでもないと言う。

それはおおよそ一般の反応とは異なるものであった。
その内面こそ嵐のように苛烈であれ、それを補うほどに三成は見目麗しい―――少なくとも病に侵され爛れた醜悪な我が身よりは。
最終的には誰もかれもが我々からは離れてゆくが、それでも最初からこちらの手をとったのは、

―――の言葉を聞いてぞくりと背筋を這うものを感じてしまったあの感情は。三成に対して××××を抱くなど、


「・・・・・・・。」


すぐに見つけてみせたあの桐の箱。
かつてがその手で我の為に折っていた千羽鶴のなりそこない。紙の屍。

それ以上思い出してはならない。
早くはこの城から遠ざけられなければならない。
我がかけてやった記憶の箱の鍵が開いてしまわぬ内に。


(―――この病の苦痛だけでなく、ついには頭痛の種も増えやるか・・・)


この仮初の安らぎはじきに崩れる。

だがもしここで鍵を渡し手枷を外して再び逃がしてやっても、結局は連れ戻されて今のような自由などないあの座敷牢に再び閉ざされる。
現在、自由に歩けているのも数人の忍びの監視とこちらの口添えがあってこそ。
は自分がおまけだと言ったが実際は真逆である―――もはや三成にとっては暗などを繋ぎとめておく枷でしかないのだ。

否、よしんばそれがうまくいくとしても自分はこの鍵をあの暗めに渡したりはしないだろう。
三成との両者を天秤にかけるのであれば傾く方など瞭然。

―――それなのにこの両手は、未だ贄の羊を差し出せずにいる。


『・・・・なんでかなー・・・』


は美しい木花開耶姫ではなく醜い石長姫を選んだ。
ならば古事をなぞらえ、せめてその寿命を伸ばしてやらなければならない。

それがただ決まった結末を先延ばしにするだけだと分かっていても、この箱の底に光があればいいと―――似合わぬ願いを掛けた。






































パンドラの箱→
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あとがき。
でもこの箱の底に希望など果たして眠っているのだろうか。
それともそこに揺蕩っているのは大谷さんの希望なのだろうか。

あくまでも大谷さんは三成サイドなのでこれ以上の手助けはしてくれません。
かといって三成のために贄を差し出すわけでもなく、ただ行き場のない両手がだらりと垂れているだけ。
普通だったら三成に傾く天秤も、自分が黙っていてほしいと最初に言われたのを破ってしまったのがきかっけという負い目で、傾ききれない。

見た目が醜い大谷さんと見た目だけは麗しい三成だったら普通は後者をとるわけで、まぁ大体はその苛烈さにひいてしまうでしょうが。
でも三成がどんなに関心を引きたいと思っても避けていく人が、自分を最初から好意的に接するというのは、きっと大谷さんの優越感をくすぐったでしょう。
ラブではないんですが、でも親友の三成に対してそんな醜い感情を抱いてしまったことに、心からの自己嫌悪感。

一番、心情的に悩まされてるのは大谷さんかもしれません。ウホッ俺得。

三成を嫌う理由について、まあ官兵衛だって三成に機会があれば牙は剥くだろうが、でも完全に前者の味方なので盲目になっているのです。
でもその言葉は的を得てなくても、きっと三成の心に刺さるものがあったのだと思います。

木花開耶姫と石長姫の話はわりと有名な気がしますが一応補足。
とある神様が美しい木花開耶姫と醜い石長姫を嫁にもらった時、前者の美しさに惚れ込んで後者を送り返してしまい。
それが永遠性を意味する『岩』ではなくすぐに散ってしまう『花』を選んだことにより人間は不老不死ではなく短い寿命になってしまったという古事。
・・・たぶんこれで大体合ってるはず・・・・私のうろ覚え日本神話関係の知識は九龍妖魔学園記とSIRENで錬成されています。
SIRENは不老不死が大きなテーマだから逆に石長姫を選んでることになってうんですよねー九龍はダンジョンの仕掛けで覚えた(キリッ


―――さて、今回のを書いてしまった事により色々と設定が固まってしまい、今までのをちょこちょこと書き直さないとゲフンゲフン
私の行き当たりばったり感はフェイトで「切嗣とセイバーは三回しか会話しない」という設定なみに考えなしです。
実際ぶっちさんにとってもこの縛りが一番きつかったらしい・・・だからアイリスフィールに二人の中継役を任せたんですって。なるほどなー。


タイトルについて。
あんなに色々と酷いことをしてきた人が、大事大事に旅の思い出を再現した部屋で、そしてずっとあの不格好な城でたった一人を待っている。
でもその一人はいつまでたっても来ない。待ち人は結局現れず。赤いヨーヨーも見張りまで付けて大事に持っていたのに。
そんな哀れで醜い豚の王様を思うと、私はただそれだけで大泣きしました。EDもゲームであんなに泣いたことねーよってくらい泣いたけど。
その後に2をやり直したら自分も選ばれた子供なのかなぁと憎まれ口を叩きながらも期待に胸を膨らませ、

で も 結 局 彼 は 選 ば れ な か っ た の だ 。 ・・・・ああ、今でもやっぱり泣けるよ。


最近、トーキョージャングルにて野性を爆発させていることに定評のある八坂です。
みんなが新作のイッシュ地方でポケモンをゲットしてる中、私はトーキョー(主に渋谷駅〜渋谷郊外)で動物のハントに精を出してたっていうね、

いや、これ、面白くね・・・?ネタで買ったつもりが面白すぎて止め時見付からなくていつも困ってるんですけど。
今日は豚でサバイバルしてたら、いつもはビーグルに殺されたり猫の群れに囲まれて殺されたりチーターの2パンチでおとされるのを世代交代までできてドキドキしました。
でも友達との待ち合わせに間に合わなくなるので泣く泣く、交尾直後の生まれたての子豚の群れをベンガル虎に差し出して全員殺してもらいセーブしました・・・ううっ
チャレンジミッションも順調にこなせていたというのに・・・「kobart60」でランキングの真ん中から下あたりをふらふらしてるのがたぶん私(白目

軽い気持ちでポメラニアンでサラブレットに喧嘩を売ったらたったの一撃で群れのうち三匹が潰された時の悲しさと言ったら・・・
しかもサラブレットは草食動物だから捕食してくれなくていつまでも・・・遺体が残って・・・ほんと、すまぬ・・すまぬ・・・


2012年 6月25日執筆 八坂潤
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