とある昼下がりの午後。
柔らかい日差しが差し込む中で欠伸を噛み殺しながら洗濯物を畳む。

すぐ横では今日は休みだと言うダンテがズボンのみと身につけるいう非常にラフな格好でテレビを見ている、が全く気にしない。
以前は顔を真っ赤にして意地でも服を着ようと頑張っていたような気がするが、どうぜ面倒くさがられるだけなので放置。

普通の人だったらドン引きするような状況でも今の私には慣れっこである。
その状態のまま平然と家事もできるし、人間の適応能力の高さって体感するとすごいものだと思う。


「あ。」


さっきバージルがシャワーに行く時に渡した服をダンテのものと間違えたのに気付いて手が止まる。
双子だからサイズは問題ないのだが磁石の対極くらいに仲の良いこいつらのことだ、確実に嫌がられる。

内心で冷や汗を垂らしながら替えの服を持ってシャワールームの前まで行く、がどうしても扉の前で躊躇してしまう。


(開けてバージルのアレがアレだったらどうしよう・・・!!)

「覗きか?」

「なっ・・・違うよ!人を変態扱いしないで!?」

「どうせだったら俺の時に覗けよ。お前ならタダ見させてやるぜ?」

「だから違うって言ってんだろーが!っていうかタダ見って、普段は金取るのかよ!!」


確かにダンテの裸体なんて余裕でお金取れそうだけれど、そんなことは泥船にのりそうだから絶対に言ってやらないぞ。


「おい。」

「わひゃッ!!」


扉の隙間からバージルの眩しいまでの半裸が覗き、それだけでもう失神してしまいそうな程にくらっとした。
ダンテので見慣れているとはいえ、普段肌を晒さないバージルの身体は少し白く、厚い胸板から鍛え上げられた腹筋の列へと続いていく。
さすがに下は穿いていたが、一切の贅肉のないその美しい上半身は私の意識を奪うには十分だった。


「これはダンテのものだろう。」

「そ、そう、間違えちゃったから、ええと、これ、替えの、服・・・・」

「次は気をつけろ。」


くしゃりと諌めるように頭を撫でられてからバージルの手が服を受け取り扉の奥へ消えていく。
見えない妙な圧迫感から解放され、大きい溜息とともに床に座り込んだ。


(心臓に悪い・・・・まだばくばく言ってる・・・・・・)


まるで美の神様か一流の芸術家が作り上げた彫像を見てしまったような心地だった。
別にバージルに対して恋愛感情だかを抱いているわけではないが、あんなものをいきなり見せられてはさすがにドキドキしてしまう。

一連の私の不審な反応をダンテが面白くなさそうに見つめてくる。


「何か知らないけれど私が恥ずかしかった・・・久々にドキドキしちゃったよ。眼福眼福。」

「お前な、あんなん俺ので見慣れてんだろ?」

「わかってないなぁ。ダンテの半裸は希少価値が低いんだよ。いつもの事だし。
 普段脱いでいないバージルが脱いでるからこそギャップが来るというか・・・・うん、すごいものを見ちゃった。」


これで今日も一日頑張れる。

また元の位置に戻って残りの洗濯物を畳む地味な作業に戻る。作業速度は心なしか先ほどより早い。
ダンテは何故かテレビを見ないで頬杖をつきながら私を眺めていた。


「どうしたの?何かあった?」

「・・・・・同じ身体だってのに俺に対してはずいぶん冷めてるな。」

「だから、ダンテの半裸なんて見慣れてるんだってば。似合ってるけれど何故か素肌にコートで露出しまくりだし。
 初めの免疫ないころは直視できないくらいにドキドキしたけれど今じゃそんな事もう無いかも。慣れってすごいね。」

「へえ、見慣れてるねえ・・・・」


ダンテの不満そうな声を無視して畳み終わった洗濯物を抱えて立ち上がる。
が、すぐさまダンテも私の進路を塞ぐように立ち上がった。

洗濯物で顔はよく見えないけれどなんとなく嫌な予感がする。


「ダンテ、邪魔。どかないど殴る。」

「つまりアレだ。この俺に下も脱げって言ってるんだろ?いやらしいな。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」


あまりの衝撃と予想斜め先の宇宙を突き進んだ発言に折角畳んだ洗濯物を落とすかと思った。

数秒ほど熟考してからやっぱり無視しようと脇を通るがすぐに進路を塞がれて今度は壁際に追いつめられる。
これが恋人同士ってんなら雰囲気はあるが実際は自分の露出を迫る男と迫られる女の図だからロマンの欠片も無い。絶滅してる。ギャグだろこれは。


「ばっ・・・おま、そしたら完全に露出狂だろ!ただでさえ片足浸かってんのに!!
 アンタマジでその美しすぎる顔じゃなかったら訴訟起こされてもおかしくないんだからね!?」

「イイ男の特権だからな。」

「特権の前に常識を持てよ!」


自信満々な笑みを浮かべるダンテに対して脳内神が撲殺命令を下す。
その完璧な造形の顎を拳でぶち抜いてやろうかと思うがせっかく畳んだ洗濯物が落ちてしまう。それは癪だ。


「だだいたい何でそうなるかな。発想が終わりすぎて地球一周して始まっちゃうだろ。
 普通だったら服を着る流れになるよ!だから着ようよ!!ついでにどいて。」

「遠慮すんなって。たぶんお前が俺以外のこんなカッコいい男の全裸を見るなんて機会は一生無いぞ。」

「本気で余計な御世話だよそれ!!っていうか何気に失礼だな!!?」

「    」


今までのからかうような声色じゃなく、腰に来るような甘い声で私の名前を囁く。
意に関してびくりと反応してしまった自分の身体がうらめしい。

まずい、ダンテの戯れとは言え背景がピンク色じゃないとおかしいとかまずい。何この空気。


「ッ!!」


観念して洗濯物を落として間髪入れずに彼めがけてアッパーカットを繰り出すが簡単に受け止められる。
何の訓練も受けていない人間とバリバリ戦闘経験を積んでる悪魔となので当然の帰結。

それどころか受け止めた私の指先に唇が寄せられ、濡れた感触とともにぞわぞわと鳥肌と何かが背中を駆け上ってくる。うわぁ何だこれ。


「すいませんダンテ様ぞんざいに扱ってごめん本当にごめん。だから許しませんか?」

「嫌だね。」


ずい、と顔を近付けられた彼の青い瞳は意外にも真剣な色を孕んでいた。
秀麗な眉に綺麗な青い目、整った鼻梁に薔薇色の唇、崇高なまでの美貌が私に向けられている。
耳元に唇が寄せられて、さらりとした銀の髪と色香が鼻を掠めた。


「下もどうなのか試してみるか?」


どうすればいいのかわからず魚のように口をぱくぱくさせる私をダンテが蠱惑的な笑みで見下ろす、次の瞬間。
ダンテの上半身が捻られて先ほどまで彼のいた場所を長い足がすごい勢いで通過した。
その時起こった突風で前髪がようやく降りてきたところで何があったのかをようやく理解する。


「バージル!」


彼と同じ顔、けれど怒りに燃える氷河色の瞳がそこにはあった。
隠すつもりもないらしい怒気と殺気に心臓が縮みあがる。私悪くないのに!


「家の中で盛るな―――この愚弟が。」

「チッ本当に空気を読まない兄貴だよアンタは。」

「ふ、二人とも家の中で暴れないで・・・ね?」


相変わらず何でこいつら一緒に住んでるんだろうと思わせる位に仲の悪い双子だ。
正直、それに挟まれる私の気持ちも時々でいいから考えてほしいです。


「今からコレを殺して鴉の餌にしてくるから少し待っていろ。」

「奇遇だね!俺も同じことを考えていたところさ。」


二人がそれぞれの獲物を手に取り足早に事務所を出ていく。
止めるのも無駄だと悟った菩薩の表情でそれを見送り、近隣ご近所の悪魔に少しだけ同情した。
さすがに本気の殺し合いになることはないだろう、と信じたい。うん。

っていうかバージル、一瞬とはいえ今のダンテと私のやり取りを見ていたんだろうか。


「たすかった・・・・」


そういえば、シャワー中とはいえすぐ近くにバージルがいたんだから彼に助けを求めればよかったのだ。
そんな簡単な解決方法すら頭から飛び出してしまうほど私は混乱していたらしい。


(うわ、今きっと顔が赤い。真夏のクーラーない部屋みたいに熱い。)


つまり私は戯れとはいえダンテにすっかり誘惑されてしまっていた、と。
あそこまで宣言しておきながら思いっきりドキドキさせられていたのだ。すごく悔しい。


(とりあえずダンテの今日のご飯は思いっっっきり辛くしてやる!)


再び洗濯物を畳み直しながら今日の献立はカレーで決まりだと小規模な復讐を胸に誓うのだった。









































→NO CONTINUE!
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あとがき。
本当はバージルだったんだけれど前回と同じような話になってたのでボツる。
せっかく最後まで書いたのに時間がもったいなかった。

ダンテの半裸にはドキドキしないけれどバージルが脱いだら私は死ぬかもしれない。ベヨネッタだと嬉しくなる。

拍手どうもありがとうございました!励みになります!!


2009年 8月29日執筆 八坂潤
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