「ねー、この本はこっちでいいの?」

「それでいい。」

「わかったー!」


バージルも一緒に暮らすようになったのもあって(事務所の崩壊が一番大きな原因だけど)、私達は新しい場所へ引っ越した。
そこにはそれぞれの部屋もあるし、バージルたっての希望の書斎もある。


―――まさか出会った当初はこんな事になるとは思わなかった


内心で呟きながら足元の百科事典並に大きな本を両手で持ち上げる。
見た目通りの重量が手にかかり当然ながら重たくて仕方がない。


「重い・・・・・バージル、本当にこんなの読むのぉ・・・・?」

「そこには重い本ばかり集めてあるからな。」

「え・・・・・・ちょ、ここ整理しろって言ったのバージルさんですよね?わざとですか?わざと?」

「・・・・・・・・。」


私の正義の訴えを当然のように無視して自分は文庫サイズの軽い本ばかり棚に黙々と収めていく。


「ふ、普通は逆でしょ!?私なんかよりも力持ちのくせに!酷い!!」

「貴様は運動不足なようだから丁度いいだろう。
 悪魔にも狙われやすいのだから腕力くらい普段から鍛えておけ。」

「わーバージルの優しい気遣いに私が泣いたーあはははははは喜ぶとでも思ってんのかこの悪魔が。」


全く感情のこもらない声で後半は呪詛を吐き出すような黒い声で応じる。
だが、青い悪魔は私の精いっぱいの嫌味も耳に入らないかのように黙々と本を棚に収めていく。

あほらしい。
誰がって?私も彼もだ。

でも実際にバージルの言うとおりなのがまた悔しい。
こっちの世界に来てから自由が制限されていたり見知らぬ土地だから気軽に足を伸ばせないというのも原因だが。

悪魔に狙われるわ家事だけしか能が無いわ(別に後者も腕がいい訳じゃないし)で


(なんか・・・・私の存在って一体・・・・・・・)


はぁ、と小さくため息をついて持ち上げていた本をやっとの思いで本を棚に収める。
それにしてもこういう力仕事の時こそダンテがいればいいのに、と今は仕事で出かけている片割れの赤い悪魔を脳裏に描く。


(それにしても、こんなにたくさんの量の本・・・何が書いてあるんだろ?)


小さな好奇心は足元にうず高く積まれている本の要塞に向けられる。
こんなに古めかしくて大きな本なんだから、まさかいかがわしかったり恋愛物語だったりする訳はないだろうが・・・

しゃがみこんで積まれた山の頂上の本へと手を伸ばす。


「言っておくがここにある本はスパーダが集めていた本だから妙な好奇心を起こすな。
 たかが本とはいえ悪魔のものだから何が起こるかわからん。」

「・・・・・・・。」

「―――聞いているのか?・・・・」

「ごめんバージル・・・それ、もっと早くに言って欲しかったかも・・・・」


怪訝な顔で振り返ったバージルの瞳には、本を開いて涙目で固まっている私の姿が映っていたことだろう。
怒りで秀麗な眉が跳ね上がるのを綺麗だなと思いながら次に飛んでくるであろう叱責に備える。

が、ふと本から光が漏れだした事に気が付いた。
それはあれよあれよという間にどんどん強くなっていく。

予想外の事実にバージルの私を叱り飛ばそうとした口は閉ざされ代わりに腕が伸ばされた。
肩を掴まれ抱きしめられ、その事に気がついて私は呆然と本を落とす。

本が落ちる重い音と、そして光が書斎を支配した。





































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