それは彼―――ダンテがバージルが住んでいた屋敷とやらを尋ねた時に起こった。

バージルと戦ったのはもう何年も前の話。
更に言えばテメンニグルが現れたのはもっと昔の話。

そんな時、ひょんな事から既に廃墟となっていたこの廃墟と化したこの屋敷の事を耳にしたのだ。


(・・・・・悪魔の姿が見えない。)


廃墟というのは悪魔や幽霊にとっては格好の寝床だ。
だからこんな風に姿はおろか気配すら感じないなんておかしい。
何の事情も知らないデビルハンターが見ればそろって首を傾げたに違いない。

悪魔はこの屋敷に近付かないんじゃない、近付けないのだ。

潜在的にかはわからないがこの屋敷の主を恐れている。
近付けばたちまち自分が狩る側ではなく狩られる側の無力な獲物に成り下がることを知っている。


(昔から容赦なかったしなぁ・・・・)


かく言う自分も何度かバージルには殺されかかっている。
本気で剣を交えたことも一度や二度ではないのにれっきとした事実だ。


(アイツ・・・そういえば昔から本が好きだったな)


この屋敷には圧倒的に本の数が多い。
今いる広い書斎の本棚という本棚を埋め尽くしてもなお床にいくつか積まれている本の山。

スパーダが持っていたものもあるだろうが、おそらくはバージルが個人的に蒐集したものも少なくはないだろう。


あの青い背中を見たのはテメンニグルが最後。
あれ以来、何度も戦ったが人間の姿に戻れる事なく死んでいったバージル。
ムンドゥスに捕らわれ心を操られた兄は、そうとは知らなかった俺が殺した。

無駄に誇り高いあの男が心を折られ封じ込められるまでに何があったかなんて容易に想像がつく。
どんなに辛い責め苦を味わされ屈辱に辱められたのか。

今でも時折、あの時にバージルの誇りを曲げてでも手を放さなければよかったと思う事がある。
もしくは自分も一緒に行っていれば、二人ならばあの魔帝にも屈する事はなかったかもしれない。


(・・・・こんなの、俺のガラじゃないな。)


あの時、あの手を離さなければ。
今この時、バージルがまだ生きていたら。

どんな未来があったのだろう。


―――そんなものは想像してもどうしようもないというのに。


おもむろにそこら辺に落ちていた適当な本を拾い上げて開く。
それはただの本ではない魔力を持つ物だとわかってはいたが、特に構う事は無かった。


「・・・・・・?」


開いた本のページから光が漏れた。
別にそれ自体は特に問題がある訳でもないので動じなかったが、閉じようとした本が急に強い光を放ったのにはさすがに驚いた。


「飛び出し絵本よりもドッキリな仕掛けだな!子供が喜びそうだ!!」


妙な事が起こる前に本を破壊すべく銃を抜いたが、少し考えて銃を下ろした。
そして自分の身体が本の光に包まれたのを感じる。


―――これは、久々に退屈しなさそうな面白い事が起こりそうじゃないか。


ここのところ表の仕事ばかりで厄介事に餓えていた彼はそう思いつつ身を委ねる。


そして光が目も開けていられない程に強烈になり、そして屋敷はいつも通りの無人の廃墟へと戻った。





































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