「・・・・・・世の中には予想できない事がたくさんあるって言うよね。」

『・・・・・・。』

「まさにその通り、だったね・・・・・」


事務所の応接間兼リビング兼デスクのテーブルでカップの中身を飲み干し呟く。
私がソファーに座り、左隣にはダンテがいて右隣りにはバージル、そして正面には髭ダンテが座っている。

これは両手に花束をすっ飛ばして周囲に花畑、といったところだろうか。
みんながみんな顔が無駄に整っているので一般人の私としては微妙に気が引ける、いやいつもの事か。


互いの事情をさらけ出し話し合った結果。

今ここにいる服を着て髭を生やしているダンテは本物のダンテであり、しかも未来の彼の姿だと分かった・・・らしい。
本人にしか知りえない秘密を知ってるんだから本物だ、とダンテは言う。
・・・・・そんな事を言われても、本人の強い意志により私達には聞かせてもらえなかったから分からないんだけど(でも本人にしか分からない事を聞いても無駄か

それによく考えればバージルの攻撃を正面から受け止められる人間なんて数が限られる。
悪魔とかいうファイナルファンタジー的なものや異世界だとかが実際にあるんだからこれ位の超常現象は普通だ、たぶん。


「けれどそこには私はいないんだよね?未来のダンテは私を知らない。」

「ああ。」

「だとしたらこれは一種の平行世界として考えればいいのかな?」

「貴様は下らない事は知っているな。」


・・・・・まぁ、ゲームや漫画にありがちな設定だったり単語だったりしますから。

二人のダンテは首を傾げているので(可愛いなこのシンクロが)説明することにする。


「つまり、未来ダンテの世界は私がいない場合の世界なわけよ。
 ここは私が存在している、違う世界から飛ばされてきた人間がいる場合の世界。
 世界はたったひとつの行動によって無限に『選択によってはあったかもしれない世界』があるという考え方、みたいな。」

「よくわからないな、人間の言葉で説明してくれ。」

「私だってよくわからないよ・・・元からそんなに頭がいい訳でもないのに。」


ええと、何て言ったらいいんだろう。
ただでさえ難しくて普段使わない単語だからそれを知らない人間に一から説明するのは難しい。


「・・・・・・。」


黙り込んでしまった私に一つ溜息をついて、バージルがスプーンを下に落とした。
周囲の視線が彼に集まるが、特に慌てないところを見るとわざとだろう。


「今、俺がスプーンを落としたことによってこれは『俺がスプーンを落とした場合の世界』になった。
 もしこの場で落としていなければ『俺がスプーンを落とさなかった世界』になっていたわけだ。
 そのようにして世界には無限の選択の世界がある。
 そしてそこのダンテの世界には『がいなかった場合で時間が経った未来の世界』という訳だ。」

「まぁ・・・・何となくは分かった。」

「ならいい。もしここまで言って分からない低能であればその余分な頭を斬りおとしているところだ。」


ため息交じりにバージルが典雅な動作で珈琲を飲み干す。
せっかく雰囲気も悪くは無かったのに(良くもなかったが)バージルの余計なひと言で再び部屋の温度が下がる。

ついでにスプーンを拾おうともしないことから私が拾えと言う事なんだろう。
面倒くさいという正義的な理由で気付かない振りをしておく。


『・・・・・・。』


会話もなく、手持無沙汰なので私は髭ダンテをじっと観察してみる。

月の光を束ねたような銀髪、悪戯っぽい光を奥に宿した蒼天色の瞳。
年齢を重ねたとはいえ肉体的に衰えは全く感じさせず、猫科の(ライオン的な)鞭のようなしなやかな身体はそのまま。
不精髭が生えているとはいえ、相も変わらず顔の格好良さはどこぞの匠が作った彫像のように眩しい。

こんな美男子(そんな年でもなさそうだが)なら女の人は放っておかないだろうな。
そういえば誰かと結婚とかはしていたり考えたりしているんだろうか。


「さっきから熱っぽい目で見つめて俺を誘っているのかい?お嬢さん。」

「いや・・・美形は年とってもカッコ良くて羨ましいなと思って見てました。
 ついでに相変わらずの自意識過剰だと思いました、今。」

「お嬢さんも十分可愛らしいよ。」

「あ、ありがとう・・・・」


ふわりと背景に薔薇が舞っててもおかしくないような色香と微笑みで言われたら、私も何も言えなくなる。
こっちのダンテから普段、いや本当に時々言われるもののイマイチ本気にはできない。
それは生まれてからずっとこの顔と両親公認の元に永いお付き合いをさせていただいている私がばっちり品質安全保障だ。

しかし髭ダンテに言われると、誉められているだけで本気ではないとはいえやっぱり嬉しい。
言われ慣れない相手、しかもそれが超絶美形だと感動もひとしおだ。

神様、こっちに来てからかなり久々に感謝します。


「いだっ!!」


しかしそんな薔薇色の嬉しさも無粋な暴力の介入によって瞬く間に消え失せる。
額に何かが二つぶち当たったらたまったもんじゃない。

何がぶつけられたのかと見てみれば揃いで買った軽い樹脂製の砂糖入れの蓋とミルク入れの蓋だった。
更に視線を飛んできた方向にやるとものすごく不機嫌そうな顔が二つ。
まるで悪魔にそうするみたいに私を睨みつけている。

文句を言おうにも無言の圧力が怖くて口をつぐむ。
軽く泣きそうにまでなってきたんだけど、いいのかな?


「男のヒステリーはみっともないな、そう思わないか?」

「思いませんええ全く。なのでその油注ぎ口みたいな口を黙らせてくれませんかね?」

 
もちろん火種はダンテとバージル。
ちなみに私はその被害を受ける家の住人もしくは住宅。

ああ、雰囲気は絶望的に悪い方向に加速していく。


「えーと、まぁ皆さん落ち着きましょうか!?
 ダンテはリベリオンの位置を確認しない!バージルは刀から手を離して床に置く!!」

「何故、俺が貴様の言う事を聞かなければならない?」

「どちらか一方でも聞かなかったらアンタらの武器にマスタード塗りたくってやる。」

『・・・・・・・』


ダンテとバージルの視線が絡み合う。
更に不機嫌さを増した顔が交錯、しかし何かを諦めたように武器から視線と手を離す。


「俺はどうすればいいと思う?」

「今度から発言する前に2・3回ほど発言内容を確認して下さい。」


髭ダンテが私の必死な殺意に肩をすくめ椅子の背もたれに寄りかかる。
よしよし、私も髭ダンテの眩しさに目が慣れた事だしこれでやっと本題を持ち出せそうだ。


「で、物事には原因と結果がある・・・・つまりこうなった事にも何か理由があると思うのですがいかがですか。」

「原因、ねえ・・・・俺はバージルの館にあった本を勝手に開いただけだが。」

「貴様・・・俺の物を勝手に・・・・・・?」


髭ダンテが髭を擦りながら発した発言にバージルの氷点下の殺意が溢れる。
いかん、何とかしないとこのままでは乱闘フルコース+我が家の崩壊危機再び、だ。

そういえば髭ダンテとバージルが戦ったらどっちが勝つんだろう。
現在のダンテとバージルだったらお互いの実力はほぼ互角。
けれど髭ダンテは幾星霜の年月に耐えた巌のような雰囲気と強さ、そして何より王者の余裕さえ感じる。

ただでさえ最強と謳われ畏れ羨まれている悪魔狩人の三つ巴の争い。
互いの命が賭かってなければちょっと見たいような気も・・・・・

・・・・・・・は!駄目だ!私までそんな事考えてたら危機が現実になる!!


こっちに来てからすっかりダンテ達の危険愛好脳に感染している事を改めて確認。
最後の良心だという自覚があるので病巣を火炎放射で殺菌、更にアルコールで清めておく。


「バージルさん喧嘩はしないでね、さっきの話は割りと本気だから。
 にしても本・・・・本か・・・・・そういえば私もさっき本を開いた!」

「ってことはバージルのその本が原因か?まぁ、親父のだしなぁ・・・・」

「更に言えばこの一連の事件はとそこの未来のダンテに原因があるという事だな。」

「ま、まぁね・・・・・あはは。」


しまった、今回は正論が向こうの方が強い。
そうなるとこれは私が下手に出て事件を解決しなければならないという事だ。


「じゃあ私がその本をここに持ってくるからちょっと3人はここで大人しく待ってて。」

「俺も行くさ。かよわいレディに重い思いはさせられないからな。」


髭ダンテが椅子から立ち上がった私の背中を軽く叩く。
久しぶりの女の子らしい扱いに感動して涙が出そうだ。
ついでにこんな事を思ってしまう自分のわびしさに涙がちょちょぎれそうだ。


「二人で行くのか?」

「当事者二人だからね、自分でまいた種は自分で処理という事で。」

「・・・・・オレも行ってやろうか?」

「あー、いや、大丈夫だよ二人で。そんなに人出は要らない。」

『・・・・・・・・。』

「ええー何でそこで不満そうな顔をするのよ二人して・・・・・」


ダンテとバージルが苦労する訳でもないのに揃って不満気な顔をこちらに向けてくる。
私にどうしろというのか。
二人と私との間で言語的な不一致を生じているようなので誰か通訳を呼んで、急いで。


「アイツらは俺とが二人きりになるのがご不満なのさ。
 ま、行ってみりゃただの嫉妬さ。気にするな。」

「え!本当!?」

『そんな訳ないだろ。』


ちょっと嬉しくなった私の言葉にご丁寧に同調した二人の否定のダブルパンチ。
油断していただけにダメージがでかいぞ!立ち直れるか選手!!


「ものすごい超解釈だな。理論が発狂し過ぎて全人類が付いて行けそうにない。」

「そういきり立つなよバージル。なら俺とが行っても問題は無いだろう?」


四つの薄氷色の瞳が音も無くぶつかる。
超重力に身を引き裂かれる気分、正直いい加減にしてほしいです。

重い溜息をついた時に不意に手をひかれる感覚。
私の手を掴んだ先には髭ダンテの不敵な微笑み。


「じゃあ、そう言う事では借りていくぜ?」

「え、ちょ、私はレンタルビデオか何かですか!?」


しかし数々のツッコミに疲れ果てていた私にもう抵抗の「て」の字もする気が起きない。
幸い、双子も何も言うつもりは無いらしい―――だから私を睨まないでくれるかな!そこで!!



結論。

当たり前の話ですが、ダンテはいくつになってもダンテのままのようです。





































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