石田三成というのは正直嫌な人だと思った。

こちらの時代に来たばかりで混乱する私を起き抜けに恫喝してきた。

そして私が未来から来たと駄目元で言えばあろうことか刀を抜いた(本物の武器なんて初めて見たからそれだけで死にそうだった

しかし半兵衛様が面白いと言って生かしてくれたのは神様だと思ったが、同じ笑顔でこの逆トンガリコーン頭のパシリになれと言われた時は悪魔に見えた。

後で名前を聞いた時、石田三成と聞けばああ関ヶ原の合戦で負けた方ですねとは言えず黙っていた。


石田三成様というのは正直怖い人間だった。

私に対し終始射殺すような視線で睨んでくるから落ち着くどころか生きた心地すらしない。

早起きに慣れず微睡んでいると容赦なく腹を踏み、着物なんか一人で着られないと正直に言えば原始人を見るような目で見られた。

刀を平然と持ち出されるその様子に否応なく戦国時代に居るのだと思い知らされて心細くて仕方がなかった。

元の平和な世界に帰りたくて何度も涙を零して朝が来るたび変わらない世界に絶望した。

実際、家康さまがいなければ私は衣食住の保障はされていても生きていけなかったと思う。

ただ石田三成様は私に対し敵愾心は抱いても女中さんのように腫れもの扱いしないのは救いだった。


石田三成さまというのは正直空気のような人だった。

私が未来の人間だと信じたのかある日を境に私はずっと放置プレイをくらうことになった。

こちらも向こうを苦手としていたし三成さまは私を嫌っていると分かっていたから近付かないようにした。

けれどその頃にあった茶会の席で三成さまは吉継さまを庇ったのだという話を聞いて悪い人ではないのかなと薄々思い始めた。

ただのうのうと生きているだけでは駄目だと感じて家康さまに小姓について色々と話を聞いた。

三成さまが倒れた時に自分が予想以上に悲しみ怒っていることに驚き、そして初めて触れた骸骨のような手に決意を固めた。


三成さまは正直子供のような人だと思った。

秀吉様と半兵衛様を親鳥として、その後を何の疑いもなくついていくような雛鳥のような人。

知れば知るほどに、人間なら避けられないはずの必要悪ともいえる汚濁が一切ない美しい世界に生きている人だと理解した。

水が澄み過ぎると魚は住めないという言葉があるが、だとしたらこの人の呼吸している世界はきっと生き物の住めない世界だと思った。

お節介だと分かっていてもそんな寒々しい世界から引き摺りだそうと家康さまと奔走した。

せめて二度と倒れたりしないようにと、首を撥ねられる覚悟と半ば祈るような気持ちで小姓として懸命に仕えた。

何度も衝突や諍いはあったけれど、気付けば私はこの人の友達になりたいと思っていた。


三成さまは正直儚い人だと思った。

自分で生きる理由を見出せず、ただ生きることもできない、弱い人。

秀吉様を殺した家康さまを殺したいと憎む一方で、その未来を全く考えられない愚かな人。

初めて路傍に転がる石に気付いたように、秀吉様を失った日に自分から私の名前を呼んで抱き寄せ初めて必要とされた。

その時に私は心からこの人に生きていてもらいたいと思い、そして自分が楽に生きられる可能性を諦めた。

三成さまが天下人になれないと分かっていながらもこの細い背中を上手に突き放すことがどうにもできずにいる。








































→知らない
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あとがき。
こういう紹介系の話こそ、一番先に書いておけよという神の声が聞こえます。本当にその通りだと思います。変換無しェ・・・

三成の背景は紫、家康の背景は黄色とそれぞれイメージカラーで決めたのですがこっちは決めてません。
人によってどんな色を抱いているのか分かれますしそれを私が勝手に決めるのもどうかなーと思いました。
緑色!という人もいれば桃色という人もいるだろうし水色もいるかもしれないしそれぞれだと思います。
もし気が向いたら、お手数ですがどんな色を思い浮かべているのか教えてください。すごく 興味が あります 。

茶会の席で三成が大谷をかばった云々は史実ネタです。
普段は遠慮して茶会の席に出ない大谷が、秀吉の設けた席に顔を出したところお茶に顔の膿が落ちてしまった(回し飲み形式だった
周囲の人が嫌そうな顔をして飲まない中で、三成はそれを平然と飲みほして見せたそうです。何この男前。

 
2010年 12月15日執筆 八坂潤
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