報酬、というには失神しそうになるほどの金額を受け取り帰宅する。
以前に私の依頼料の1万ドルは安いだの言われたが本当にそうだったのかと実感した。

そして当然の疑問を目の前に座っている男に投げかける。


「いっつもあんな額もらってんのに何で借金まみれ・・・?」

「何でだろうな?俺にとっても長年の疑問だ。」

「いや、私にはわかる気がする。」


帳簿計算をする、と前に言っておきながら今になって初めてまともに帳簿と睨み合う。
なぜなら今までこうしてダンテとまともに向き合ったことなど無いからだ。

ペンを回しながら横目に見る札束の山は、それでも初めはもっと多かった。
けれど破壊した部屋・家具の修理費を依頼料から差っ引かれたため(あれだけやられれば当然か)こんな事になってしまったのだ。

つまりこの破壊魔は毎回反省せずにフリーダムにやらかしているため借金まみれなんだろう。少しは反省しろ。


「ダンテさぁ・・・少しは慎ましやかに大人しくできないの?そうすればその疑問もすぐに晴れるよ。」

「ハハッそんなつまらない事言うなよ。何事も派手に行こうぜ?」


駄目だ、この人。ヘタに強くて(不思議な話だが)今までやっていけただけに駄目生活っぷりが染みついている。

そんなことより、と言わんばかりにダンテが純白の箱を帳簿の上にどんと乗せる。
頬が軽く引き攣るが美青年の子供のように輝く目にため息をついて札束と帳簿を横にどけた。


「ちょっと待って。包丁取ってくるから。」

「別にコレでもいいだろ。」


そう言って側からあの長剣を取り出す彼に向けて全力でビリヤードの球を投げつける。
あっさり片手で受け止めたダンテの青い目には不服の色。


「いや、少し前までそれで悪魔斬ってから洗ってないよね?ねえ?」

「洗えばいいのか?」

「そういう問題じゃない!少しくらい大人しく待とうよ!!」


唇を尖らせる彼を他所に台所から包丁を取り出し、買ってきたケーキ屋の箱を開けた。
出てきたベリーがふんだんに使われた贅沢なタルトと甘い香りに私の頬も綻ぶ。
命を賭けた報酬にしてはかなり安いものだろうがそれでもおいしそうなものというのは嬉しい。

無遠慮にタルトに伸ばされるダンテの手を全力で振り払い、慎重に包丁の刃を当てる。


「別に適当でいいだろそんなもん。」

「いや、こういうのは厳密に計算して・・・ってあーー!!」


私の防御をかいくぐり整った手がベリータルトを手掴みでもぎ取る。
そしてそのまま口へ運び、銀の略奪者は実に満足そうな笑みを浮かべた。


「原始人みたいな食べ方すんな!あーもー・・・手ちょっと切っちゃった・・・」


中指のちりっとした痛みに恨みの念をたっぷり込めてダンテを睨む。
既にカスタードとジャムで口周りを汚しご満悦な様子の彼はどこ吹く風だ。

とりあえず正当な復讐として殴ろうとすると、怪我した方の指の手首をいとも簡単に掴まれる。
そしてそのまま彼の赤い唇に運ばれ指先をいつぞやの濡れた感触がなぞった。

かっと音を立てて頬に血が上り即座に指を引き抜き、今度は躊躇いなくもう片方の手で彼の額に渾身の拳を叩き込む。


「いってぇ!」

「ななななな何すんの!?アンタそれ普通だったら訴えられるレベルだよ?知ってた!?」

「落ち着けよ。とりあえず指見てみろって!」

「はぁ!?」


言われた通り大人しく自分の両手を広げて指先を見てみると特に何の変哲も無いいつもの指だ。
しかしすぐさま全身が凍りつくほどの違和感に襲われる。何も起きていない事こそが問題なのだ。


「傷が、ない・・・」


おそるおそるダンテの瞳を見つめる。
私の視線に対して彼は悪戯小僧のように鮮紅色の少し長い舌を出して見せた。

その仕草になんとなく答えがわかったような気がする。

あんな大怪我も瞬時に治る再生力の持ち主だ。
だから彼の不思議な力で、何だかよくわからないが治ったのだろう。やり方はともかく。副作用がちょっとだけ心配です。


「やり方は非常にともかく、ありがとう。
 ・・・けれどいきなりやられると心臓に悪いから今度は予告してくれない?」

「傷を舐めさせていただいてもよろしいですか?お嬢様。」

「ごめんやっぱり放置して。」


一端の文明人である私はフォークと皿を取り出し包丁でケーキを取る。
そして赤と紫の宝石箱のようなベリータルトを口に含むと頬が蕩けるほどのおいしさだった。幸せ。


「・・・・でもさ、こんな事ができるって事は・・・やっぱりダンテ、って悪魔、なの?」


タルトを食べる手が止まり、ダンテの薄氷色の瞳が眇められる。
私は聞き逃すまいとテーブルから身を乗り出し厳粛な面持ちで彼の答えを待つ。

永遠とも感じられる一瞬の沈黙の後、男の唇が動いた。


「ああ。さっき言った通り、半分だけな。」

「半分だけ・・・・」


じっとダンテの怪我をしていた方の肩を食い入るように見つめる。
やはり傷口は綺麗に塞がっている。それは彼の半分の悪魔の血が治癒させているのだろうか。


「イイ男だからって見とれてんのか?」

「違う!・・・肩に、触っても?」

「どうぞ。」


身を乗り出して服が破けてむき出しになっている彼の肩に、恐る恐る手を伸ばして触れてみる。
吸い付くように滑らかな肌の感触。これが少し前まで大怪我をしていたなんてとても信じられない。

その際に改めてダンテの美貌を間近で見せつけられて溜息が漏れる。
月光のような銀髪、青空のような碧眼、整った鼻梁に薄紅色の唇、完璧な造形の顎。
思わず見蕩れずにはいられないこの美貌も人外のなせる技なのかもしれない、と妙に納得してしまった。


「良かったね、痕にはならなくて。色男のまんまだよ。」

「は俺が半分悪魔だと知っても心配してくれるんだな。」

「半分悪魔だろうがダンテはダンテなんだからもちろん心配するよ。」

「――――そうか。」


ダンテの頬が少し緩んだ、と思った瞬間に肩をなぞっていた指を掴まれる。


「何を、」

「ありがとな。。」


ちゅ、と濡れた音で姫に跪く騎士のように口付けられて、頭の中に響いた破裂音と共に椅子に力なく座り込む。
そして熟れた林檎よりも赤くなった頬を隠す為に机に顔を伏せた。
心臓は放っておくと破裂するんじゃないかって位に暴れている。落ち着け、私。


「あのさぁ・・・そういうのはもっと大事な人にやんなよ・・」

「安心しろ。俺はお前よりももっと胸があって腰がくびれてる美女が好みだ。」

「何それすっごく失礼!!」


がばっと勢いよく顔を上げて歯を剥きだしてしゃーっと威嚇する。
ここに来てからカンの良さといい、ますます野生化が進んでいるような気がするがこの際気にしないことにする。

私の威嚇にもダンテは面白そうに腹を抱えて笑う。
悪魔を狩る時に浮かべる笑みとは違う、邪気のない笑いに怒る気が失せて頬杖をつく。


「まぁ、庇われた私が言うのもアレなんだけど・・・あまり無茶はしないで。
 すぐに治るとわかってもやっぱり心配は心配だし、ダンテが怪我すると悲しいよ。」

「悲しいか?」


冗談でもおどける訳でもない、心の底からの疑問の声。
大仰に頷いてタルトを口に含む。甘いはずのタルトに少し苦味を感じた。

銀の半魔は少し目を瞬かせてからふっと笑ってみせた。
その笑みがあまりにも綺麗で一瞬見蕩れてしまう。やっぱり美形は羨ましいです。


「ダンテの・・残り半分は人間って事で大丈夫?」

「ああ。母親が人間で父親が悪魔だ。あそこに母さんの写真はあんだろ?」


顎で促された先の写真立てには確か金髪の美女の写真があったはずだ。
手に取ってまじまじと見ると、言われてみれば目許や雰囲気などが似ている。
ダンテのこの世のものではないような美貌は半分悪魔の血が混じっているからだと思っていたけれど、単なる親の血かもしれない。
普通の両親、平凡以下といっても過言ではない容姿の自分には羨ましい話です。


「恋人かと思ってたよ。」

「おいおい、カンベンしてくれ。」


げんなりとした表情でダンテが首を振る。
けれど写真立てと写真は一つしかない。最低でももう一人分あるはずのものがない。


「お父さんのは無いの?」

「ねぇよ。そんなもん。」

「ふーん・・・・・それは残念。」


まぁ、ダンテを見ればお父様もさぞかしお美形だったのだろうと容易に想像がつくけれど。

勝手に彼が老けた姿で想像してみると何故か口に真紅の薔薇を銜えてかっこつける面白映像が浮かんだ。
笑う雰囲気じゃないのにちょっと面白い。っていうかやりかねないから困る。

母親の写真を机の上に置いてから、両手を合わせ目を閉じてご冥福をお祈りする。


「何してんだ?」

「仏教式の死者の悼み方。純粋な仏教徒って訳じゃないけど。」


写真をまた事務用の机の上に丁寧に戻す。もちろん一礼するのも忘れない。


「―――親父は偉大だったと母さんには何度も聞かされた。冗談みたいな話だが伝説にもなってる。
 人間界が魔界に飲み込まれそうになった時、悪魔でありながら人間を救った英雄だってな。」


ダンテはつまらなさそうに言ったが、その言葉の意味する事に衝撃を受ける。
つまり、ええと彼のお父さんが人間の世界の滅亡を救った?それってとんでもなくスケールのでかい話だ。

非現実じみた英雄譚だが納得させるものがあった。
その英雄の息子だっていうなら彼の異常なまでの強さにも説明がつく。


「でも、どうして?ダンテのお父さんって純粋な悪魔だったんでしょ?何で人間の味方をしてくれたの?」

「慈しみの心に目覚めたとか何とか。ま、どーでもいいけどな。」

「どーでもいいって・・・・そこは誇ってもいいと思うけどなぁ。ウチのお父さんなんて平凡な一般人だよ。」


自分で家族の事を口にしておきながら胸にちくりと棘が刺さった。
胸の痛みで涙腺が緩みそうになるのを堪え、何でもないように顔の部品の配置を置き換える。


「けどそのせいで悪魔からは裏切り者として恨まれ、母さんは殺された―――兄貴もな。」

「お兄さん・・・?」


ダンテのお兄さん、という言葉に胸がざわつく。脳裏に一つの映像が横切る。

非現実的なあの図書館で会った、ダンテとそっくりの顔と同じくらい強さを持つ蒼の男。
彼も魔法みたいに剣を何もないところから出していた―――それが悪魔の力によるものだとしたら?

けれどそれよりも私には聞かなければならない質問があった。


「ずっと聞きたかった事がある。お願いだから答えてほしい。」

「俺のスリーサイズ以外なら何でもどうぞ。」

「茶化さないでよ。人が珍しくシリアスなんだから。」


ずっとずっと聞きたくて聞けなかった言葉―――けれど今なら聞けるかもしれない。
ここまで来るのに長い時間を費やした。

大きく息を吐いてから真っ直ぐにダンテの瞳を見つめる。
唇が何度か震え、けれど意を決して疑問を吐き出す。


「どうしてダンテが私を助けてくれたの?半分悪魔だから?それとも半分人間だから?」


彼の白い顎が無言で天を仰ぎ、大柄な身体がソファーに沈み込む。


「どっちでも構わないから正直に答えて・・・・お願い。」


私は拳を強く握りしめて答えを待つ。

半分悪魔としてなら―――ダンテは私を殺すために悪意で生かしたという事。
半分人間としてなら―――ダンテは私を生かすために善意で助けてくれたという事。

この問いは彼がどちらとして生きているのか、という生き方を問う質問だった。


「――――さぁな。正直、俺にもわからない。」


そう答える彼はいつもの声なのに悲しげに感じられる。
こちらを真正面から見据える表情は、どこか拠り所を求める子供のようだった。

そこで初めて後悔する。自分の問いは確実にダンテの心を傷付けた。
半分悪魔で、半分人間。そんな中途半端ともいえる立場の彼は己の存在に不安を感じていないはずがないのだ。
何故なら私もそうなるからだ。どちらでもある、というのはどちらでもないという事で―――自分が何に属せばいいのかわからない。

けれど、それでも聞きたかった。
半人半魔のこの男が何なのかを見極めたかったのだ。


「善意で助けたつもりが首を絞めた。さっきだけじゃなく、今までもな。
 そういう事してんだから俺は悪魔よりの存在かもしれねえな。」


無意識に手が自分の首筋を撫でる。自分が今までにも殺されかかっていたと知って背筋が寒くなる。
けれど口にしなければならない言葉と思いがあった。


「けれど、さっきは私を助けてくれた。庇ってくれた。
 ダンテがそうしてくれなかったら私は確実に死んでたよ。」


自分の反論にはっとする。疑問の答えは初めから明白だった。


「思えばいつも助けられてた。仕事漬けになったのも、私を自分から遠ざけるため?」

「単に金が無いだけだ。買い被りだろ。」


ダンテの言葉には熱がない。けれどそれだったら普段から借金王であるこの男はもっと早く働いていたはずだ。
愛の力かどうかはともかくとして、エンツォさんの言葉はある意味では当たっていたのだ。

胸の中に熱い思いがこみ上げてくる。視界が潤み、涙腺が崩壊しそうになっていた。


「最初の時も、ダンテが助けてくれなかったら悪魔に殺されてた。
 その次に襲われた時も、それからずっと私を助けてくれていた。守ってくれていた。」

「・・・・全部が善意とは限らないだろ。」

「そんな事ない!!」


テーブル越しにダンテに思いっきり抱きつく。
彼の身体がびくりと膠着するのが分かった。けれどそれでも腕の力を強めて抱き寄せる。


「ごめん・・・今まで何も気付かないし、むしろ疑うわ噛むわ殴るわで・・・」


先程の自分の暴挙を思い出し気分がどんどん沈んでいく。
ああ、何であんな事しちゃったんだろう。今更になって後悔する。


「私って最悪だ・・・・本当にごめん・・」


みっともなく鼻水をすすりながら、自分の状態に恥ずかしくなり体を離そうとする。
けれどダンテの大きな手が私の背中に回ってそれを許さない。


「!!?」


離れられない、と分かると途端に手足をばたつかせてダンテから離れようと試みる。
無駄な抵抗に対してダンテはくつくつと愉快そうに喉の奥で笑ってみせた。


「ギャー!はなっ離して!?」

「から抱きついてきたんだろ?」

「そ、そりゃそうなんだけど!?あ、いや、うん・・・・」


あやすような手つきで背中を優しく撫でられ、自分は今慰められているのだとわかる。
先程まで暴風雨のように荒れ狂っていた感情がゆっくりと落ち着いてきた。

ぎゅうっとコートごと厚い肩を掴んで声を絞り出す。


「あ、あのさ、ダンテ・・・私ってここにいてもいいの?
 私って弱いし、役に立たないし、居るだけで迷惑みたいなもんだし、ダンテの好みじゃないし、それに、」


言葉を重ねれば重ねるほど自分の無価値さに落ち込んでくる。
ええと、いいとことかあったっけ?私。家事なんて誰にだってできるし、私にしかできないような事なんて―――


「初めからそういう依頼だろ?」

「うん、そうなんだけど、でも・・いいのかなーって・・・」


不安からコートを握る指の力が強くなる。
これで拒絶されたら―――あ、その先が想像できない位に未来が暗い。


「そういうの承知でこっちは守ってやるって約束してんだよ。それにお前結構面白いしな。」

「あ・・う・・・・」


さも当たり前と言わんばかりの声色で肯定される。
私がここにいてもいいと、存在することを許してくれている。


「だから、ここにいろ。守ってやるから。」


その言葉で引っ込みかかっていた涙が溢れてくる。
ずびずびと鼻水をすすりながら肩口に顔を埋めた。


「ありがどう・・・・」


嬉しいのに涙が清流のように溢れ出し、安堵感から間欠泉のように嗚咽が漏れる。
それなのに相変わらずダンテの手が優しくあやしてくれるものだから、子供のようにわんわん泣いてしまった。

今までの不安も、恐怖も、猜疑心も、全て涙に乗せて流してしまおうといわんばかりに。





































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あとがき。
どう考えてもDMC3SEのバージルの「たまにはお前の遊びに付き合ってやろう」がかっこよすぎる件について。
ダンテの「楽しすぎてイっちまいそうだ!(うろ覚え」も好きですよ。あれ、何か違う?

心に残っているキャッチコピーは「変われる強さ、変わらぬ想い」(TOE)→テイルズ史上屈指の名作。まだ病気要素は薄い。
「この人の手を離さない。僕の魂ごと離してしまう気がするから」(ICO)→やりたいやりたいと言って難民状態。
「どうあがいても、絶望」(SIREN)→本当にそうだから困る。超鬼畜難易度。屍人が可愛く思えるようになってからが本番。撲殺天使宮田。


ここでべヨネッタとDMCキャラの絡みを勝手に妄想してみる。


ダンテの場合→一通りセクシーポーズ対決した後、死闘。
       もしくはお互いに病気・痴女・変態発言をした後、死闘(いずれにしても戦う

バージルの場合→とりあえずベヨ姉がボケる前にバージルから殺し合いを仕掛けてくる(ノリが悪そうだから

ネロの場合→散々ルカのように遊ばれて可愛いネロが鑑賞できる。尻とかべヨ姉に触られる。私も触りたい。
      頑張って戦うけど魔獣召喚で服が脱げる際に確実にワンコロに食われる。もちろん無事(正直ネロとの組み合わせが一番見たい

レディの場合→激しい銃撃戦。戦う女達に八坂狂喜(たぶん乳揺れ祭になりおっぱいコールが絶えない
 
トリッシュの場合→ベヨネッタに対抗してトリッシュも脱ぐ。
         もしくはダンテと同じくセクシーポーズ対決(正直どっちにも踏まれたい  
 
 
コバルト60はベヨネッタとDMCの共演の実現を割と真剣に応援しています。
今回のあとがきは内容にかすりもしてませんね。日記でやれ。


2009年 11月9日執筆 八坂潤
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