「ま・・・て・・こ・んの、やろ・・はぁ、はぁ・・・」


人通りがない薄汚い路地。
空は夕焼けの赤と夜の黒が混ざりあう一歩手前の状態。時間がない。私の自由時間は短いのだ。

ぜえぜえと息を切らして死人一歩前のような顔で悪魔を追い掛ける。
そんな私の苦しむ姿を楽しむようにくすくすと笑いながら悪魔は空を滑っている。

こんな悪夢みたいな光景なのに通りには誰もいなくて、それが更に非現実感を煽る。
ゴーストタウンを彷徨っているようで落ち着かない。


(遠くて、近い・・・距離が、変わらない・・・・)


距離は縮まる気配はないが引き離されることもない。
ぐるぐると同じような場所を走り回らされてるようで、時間と労力の割にはあんまり進んでいないように思えた。
初めは無我夢中で追い掛けていたから気付かなかったけれど今となってはその違和感に気付く。

たぶん相手は私を引き離すこともできるのに、わざわざ人間の私でも通れるような道を選んでいる。何がしたいんだ?

陽が落ちて仲間がたくさん現れるのを待っている?時間稼ぎ?
ダンテをおびき出そうとしている?釣り餌?
私をどこかに連れていきたい?罠?


(いずれに、しても、追い掛け・・なきゃ・・・・)


例えどんな思惑があろうともアレはダンテの宝物だ、諦めるわけにはいかない。

ただでさえ私は前にお守りとしてもらったブレスレットを失くしているという前科がある。
再び似たようなことがあれば今度こそ申し訳なさでまともに顔も見れやしない。彼とはできるだけ対等でいたいのに。

せめて情報を得る。あわよくばダンテに気付かれる前に奪い返して逃げる。願わくば悪魔をぶん殴る。
やろうとしていることは悪戯を隠ぺいする悪ガキみたいだが事態は深刻で私も真剣だ。


「あっ・・・・・」


悪魔が打ち捨てられたような古い教会の割れた窓からするりと中へ入っていくのを見た。
ところどころ残っているステンドグラスと壁を這う植物の蔦が、人の手が及ばなくなって久しく経つことを示している。

一瞬だけ躊躇したけれど、呼吸を落ち着かせて足に力を込める。
今更何も得ずに引き返すなんてできない。ふつふつと湧き上がる恐怖を煮立つ怒りでごまかす。


「こんっのクソあくまああああああああぁぁぁぁぁぁ!!それ返せっつってんだろーが!!!!!」


雄叫びと共に勢いよく扉を蹴り開け、空中に浮遊するあの悪魔を見た瞬間に理性が一瞬飛ぶ。
手に持っていた靴をぐっと握りしめ裂帛の気合を込めて目標めがけてぶん投げた。気分はイチロー選手。
すぐさまもう一足も投げつけて、回避をした先の可愛らしき少女の顔面に靴が容赦なくクリティカルヒットする。

一瞬顔がのけぞったのを確認、女らしさを踏み潰してぐっとガッツポーズをきめた。


「ずいぶん勇ましいお姫様だことで。」

「あぁ?・・・わっ!」


すぐ横から聞き慣れた美声がしてぐいと逞しい腕に抱き寄せられる。
抵抗して腕に思いっきり噛み付いてやろうとしたら、ぐしゃぐしゃと頭を掻き回されて我に返った。

見慣れた赤いコートの袖に、見上げれば悪戯っぽく笑う碧眼に薄暗闇に浮かぶ白銀の髪。


「だ、ダンテ・・・どうしてここに・・・・」

「、無事・・・みたいだな。っつーかお前、攫われたんじゃなかったのか。」

「へ?攫われた?何が?」

「・・・・・・・・・もういい。」


何故か疲れたように薔薇色の口唇から深い溜息が吐き出される。

密着した体勢で服越しに伝わる熱い体温に気恥ずかしくなって、離れようともがいたらますます強く抱き締められる。
そのままの体勢で髪を掻き上げられ、腕を持ち上げられて―――傷の有無を確かめられてるようだ。
くすぐったくて笑いを堪える私とは対照的に向こうの秀麗な顔は少し険しくなっていく。

そういえば、裸足で走ってきたから足の裏は擦り傷だらけだし、さっきのポルターガイスト攻撃のせいであちこち痛む。
確かに怪我もしているけど重要なものじゃない。それよりももっと大事なものがある。


「無事!無事だけど・・・・」

「そうか?俺には酷い有様に見えるけどな。」

「違うんだって、私なんかよりもダンテのアミュレットが!」


例の悪魔を指をさしてダンテにアミュレットのことを教える。

先刻は気付かなかったけれど、アリスの隣には見慣れない悪魔が二匹も浮遊していた。
人間のような背丈にタキシードを着込んだ雪のような白兎、対照的に子供のような背丈の帽子を被ったおじさんがこちらを見下ろしている。

そこにアリスが揃えば、帽子屋と三月兎で物語の寓意だとさすがの私も分かる。
なるほど、マッドティーパーティーか。茶菓子と紅茶の用意をしているようにはとても見えないけれど。


「わた、私、アミュレット、取られちゃって、」


申し訳なさと情けなさ、後ろめたさで大事なことなのに声が小さくなる。
そりゃ隠すつもりはなかったけれど、あんなに大切にしていたものを預けられておいて盗まれてしまうだなんて。


「ごめ、ダンテ・・ごめんね、ごめんなさい。私、また・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・お前な。」


頭頂部に衝撃。シリアスな空気も音を立てて崩れた。
あれ、視界が白と黒に点滅して星が見えてる気がするのはなぜでしょう?


「いぃっっった!!」


答えはダンテの肘が勢いよく落とされぐりぐりと押し潰されるからです。当然めちゃくちゃ痛い。
いや、これ、本当に痛い!頭の形が変形して新人類に生まれ変わったらどうしてくれる!!


「いだ!いだだだだだだだだ!!!!!!!!」

「な・ん・で・俺・を・待・た・な・い・ん・だ・よ!」

「・・・・・あっそういえばそうか。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「ぎゃーーーーーーーーっギブ!ギブギブギブギブ!!」


ますます力を込められて、頭蓋骨が軋むようなヤバい音が耳奥で響き本気で意識が飛びかける。

一通り締め上げられてぐったりとした私を荷物のように脇に抱え、ダンテが心底呆れたような顔でこちらを見下ろした。
自慢するようなことではないけどこの破天荒の代名詞ともいえる男をここまで呆れさせたのは新記録じゃないだろうか。
あとこの姿勢、ダンテの腕が私の腹のお肉に食い込んで正直辛いです。


「たまにお前、すげえアホなんじゃねーかと思う時があるよ。
 少なくとも俺をここまで驚かせたのは新記録だ。よかったな、受賞のコメントは?」

「だ、だって、取り戻さなきゃって・・・・」

「――――それで、」


また彼の腕が動いたような気配がして、第二波に頭を抱えて備える。
しかし予想に反し硝子を労わるように優しく頭を撫でられてちょっと困惑した。


「・・・・・そんなボロ雑巾みたいになってか。」


平生からは予想もつかないような元気のない声に驚愕。
どんな表情なのか、まさか心配してくれたのか、ちょっとにやにやしてたら地面に落とされた。酷い。

抗議のつもりで頭上を仰いだ時にはもういつもの余裕の表情。ちょっともったいないことをした。


「ボロ・・・!え、そんなに酷い?今の私そんなに酷いの?」

「ああ。家帰って早くシャワー浴びて寝た方がいいな。」


背中の銃を優雅に抜いて空中で笑う三体の悪魔に突きつける。
どんな姿も何をやらしても絵になる男だ。まるでアクション映画の主人公みたい。


「とっとと取り戻して帰るぞ。」

「・・・・・あれ、怒ってないの?」

「いや、意外と忠犬だったことの方が驚いた。ま、家に帰ったらな。」

「うわー・・・・・っていうか犬扱い?」


家に帰りたくねえ、とうめく声に対しダンテがくつくつと喉の奥で笑った。
彼にとっては大事だろうに、意外にも怒気が感じられなくて少しほっとする。それどころか少し愉快そうだ。


「は・・・話は終わりカネ?」

「人のピロートークを盗み聞きとはいい趣味だ、が悪いがアンタにゃ用はねえ。
 隣のガキに人の物を盗んじゃいけませんって教えてやろうと思ってね。」

「え?ピロートークって何?」


俺の傍から離れんなよ、言われて地面からしゃきんと直立して彼にへばりつく。
言われなくても命が惜しいので離れるわけがない。疑問は当然スルーのようだ、まぁいいか。


「き・・・君はアリスを発見シた。おメデとう。か、帰っテ報酬を受け取るがイイ・・」

「ああ帰るさ。こっちの忘れものを回収したらな。」


銃声が響いたと思った瞬間、床が音もなく崩れ落ちた。
原因を考える間もなく浮遊感に包み込まれ、それでもなお手を伸ばしてアミュレットを取り戻そうとする。

小さな舌打ちと共に離れ離れになりそうだった体をダンテが引き寄せ、自分に抱きつかせる形で支えてくれる。
絹のような銀糸が鼻先を掠めるほど近い頭の距離で頬に朱がさす。


「ちょっ、ダンテ、近い近い近い近い!私、爆発する・・・!!」

「舌噛んで死ぬなんつー更に恥ずかしい死にかたしたくなけりゃ黙って掴まってろ!」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」


後頭部を大きい手で抑え込まれコートに押しつけられたせいで沈黙せざるをえなくなる。
冷静になった瞬間、どっと押し寄せてきた不安の波に自らもダンテの首に腕を回して必死にしがみ付く。

しばらく落下した後、ほぼ無音でダンテが地面の上に舞い降りた。
衝撃からも守られてゆっくりと地面に下ろされた時はすっかり膝が笑ってしまっていた。
無事に床に着くことはできたけれど、考えるまでもなくダンテがいなければ大怪我をしていたところだ。


「こ、ここ、どこ?なんで教会の下に穴が・・」

「っと、それ以上歩くとお先真っ暗だ。やめておけ。」


再びダンテの傍に身を寄せ、あらためて周囲を見渡してみる。

まず鼻につくのは噎せ返るような濃い血臭。匂いの源は私達を取り囲む、果てが見えない赤い池。
私達はその上の頼りない小さな丸い島のような石材の上に立っている。引き留められなければ落ちていた事実にぞっとした。

それ以外は薄暗くてどうにも果てが見えそうにもない。
まるで地獄の底にいるようで不安になった。


「まさかこの海泳げとか言わねえよな?水着なんて持ってきてねえのに。」

「え?そこなの?そんなの私が困る。上は?」

「残念、塞がる。」


確かに私達に差し込んでいた光はどんどん細くなっている。
頭上を仰げば、帽子屋が嘲弄するようにひらひらと手を振ったのを最後に完全に穴は閉じてしまった。

ふっと音もなく辺りが暗闇に塗り潰された。
辺りは血溜まり、頭上には悪魔が三匹、足場は頼りない、脱出口も見当たらない、どう考えても最悪だ。
絶望感で意識が飛びそうになるのをダンテの頼もしい腕に縋りついてなんとか耐える。


「情熱的だな。」

「いやあの本当に怖いですホラー映画みたいで。ダンテは怖くないの?」

「確かにB級映画並みだな。ま、悪魔が怖くてデビルハンターなんかやれるかよ。」


こんな状況でも普段通りのこのデビルハンターは本当に頼もしい。ヤツの心臓は鉄でできているに違いない。

ダンテが空いている方の手で剣を床に振りおろし、カァンという甲高い音と共に火花で一瞬だけ周囲が照らされる。
その刹那に見えたものに対して私は悲鳴を噛み殺すのに必死だった。

もう一度あの高い音が鳴り、血の海に浮かぶ無数の骸骨が照らしだされる。
二つの虚ろな眼窩がこちらを無感情に見つめ返してきた―――ああ、目眩がしてきた。

再び闇の帳が降りるのを今度はほっとした安堵の気持ちで迎える。


「鮫じゃねえが骸骨の上を渡って行くか・・・・」

「!!」


とんでもない!なんて罰当たりな提案だ!!というかよくそんな発想が湧いてくるな!!!

あまりの提案に頭をぶんぶん振って拒絶の意を主張する。
暗闇の中でも通じたのかダンテが頭を掻く気配がした。うん、足手まといでごめんなさい。


「ここにゃタクシーなんて気の利いたものはないが、さて、どうするか・・・ッ!?」


急にがくっとダンテの体勢が崩れて、もたれていた私も押し潰される形で地面に膝を吐く。
耳元の彼の呼吸は荒く余裕がないことを悟る。

突然の彼の変化にどうすればいいのかわからない、頼みの綱が切れそうで泣きたくなった。


「だ、ダンテ、ダンテ!大丈夫?どこか悪いの!?」

「体が・・・熱い・・・血が、沸騰するみてえだ・・・・」

「え?風邪!?」


彼の浅く喘鳴する首元に手を当てると確かに溶岩のように熱くなっている。
このまま熱が上がってしまったら?怖くて私の片手を首に当てながら彼の手を強く握った。

しかし帰ってきた岩のように固い感触と鋭い痛みに顔を顰める。
ダンテの爪で自分の指を切ってしまったのだと理解するのには時間がかかった。

けれどどうして?皮膚も固いし、これじゃまるで化け物みたいな・・・・


「・・・」

「・・・・・っ」


血の流れた指を掬われ丹念に血を舐めとられる。いつぞやの恐怖の再来に戦慄した。
振り払おうにも今この状況で彼に逆らえばどんな目に遭うかわからない。

ダンテの緋色の瞳が暗闇に浮かび、その色よりもその無感情さに目眩がした。


「ダンテ、ダンテ、ダンテ・・・・・」


必死に名前を呼んで、ダンテの意識を呼びとめようとする。
目の前、目と鼻の先にいるはずなのにそうしていないとどんどん遠ざかってしまうようで恐ろしかった。


「おねがい、行かないで、消えないで・・・・・」













誰かの声が聞こえた気がする。

熱に浮かされた思考回路で、目の前ですすり泣くを他人事のように眺める。
彼女の血を口に含めば甘美な味に目眩がしそうだった。どんどん理性の殻が剥がれていく。


「・・・・・・・・・離れて、ろ・・」


全身の血が沸騰しているような錯覚。
感覚が消え理性が剥がされ、自分の力の制御ができなくなる。

どんどん自分の身体が異形に変化していくのを感じていた。
爪は相手を切り裂く為に伸び、皮膚は攻撃から身を守るために硬質化し、全身から制御しきれない不可視の力が溢れてくる。
変化していく身体につられるように精神までも毒に蝕まれているのを感じる。けれどどうしようもない。

―――そうか、これが悪魔の力か。

けれどこのままでは本能のままを殺すかもしれない。
そうでなくても強大すぎる悪魔の力はか弱い人間を傍に置くだけで傷付ける。


纏わりついてくる細い手を振り払えば、悲しそうに黒い瞳をゆがめる。
こっちなりの精一杯の気遣いなのに、それでもなお伸ばしてくる手を振り払う。

しかし今の変化した身体には軽すぎる拳が顔面に飛んできたときはどうしてやろうかと思った。


「っんの馬鹿!そんな状態のダンテを置いていけるわけないでしょ!?」

「おまえ、な・・・・」


暗闇の中でも悪魔の目は陽の元と同じように見えている。

が顔をくしゃくしゃにして必死に手を伸ばしているのが見えた。
こちらを殴りつけた小さな手は硬い悪魔の皮膚のせいで真っ赤になっているのに、怯むことなく。

思考が悪魔と人間のぎりぎりの境界線を保つ中、傍らのリベリオンが強大な力を得て歓喜に咽びないた。
不快なはずの血の匂いに精神が高揚し唇が残酷な弧を描く。


「ダンテ、戻ってきて・・・ダンテ、ハゲろ、ダンテ・・・」


不吉な言葉もあったが、傍らでまたか細く呼ぶ声が聞こえる。
さっきのが親に縋る子供のように俺に抱き付く。

悪魔としての本能の灼熱に支配されつつある思考には邪魔としか思えない、しかし振り払おうとした手は何故か守るように抱き寄せていた。

視線の奥には六つ目の巨大な猫のような悪魔がこちらを見て爛々と目を輝かせている。
不気味に光る六つの光点にすぐ近くではっと息をのむような小さな悲鳴が上がった。
獲物を狙う肉食獣の笑みに触発されるように、女の体を自分にもたれかけるように支えてもう片方の手は剣を構える。


はっきり言ってこの手は足手まといだ。
しかし縋りついてきたこの手を離すことだけはどうにもできない。

耳元で半ばパニック状態になっている悲鳴は無視。
相手が落ちないように力を込めて一気に猫のように密やかに跳躍する。


「お客様、シートベルトのご装着はよろしいですか?」

「は?えっ?うん!?」


の手が恐る恐る自分の首元に回されたのを感じてから、息を吐いて一瞬で加速する。 
普段通りの加速なのにその違いは歴然だ。ぞくぞくと高揚感に苛まれながら不規則な軌道を描いて接近する。
耳元の「吐きそう」という死にそうな呟きは意図的に無視。

悪魔もこちらに向かって無数の毛を針のように槍のように飛ばしてくる、が鼻歌交じりで回避する。
いつもなら多少のダメージは負っていたかもしれないが今なら当たらない。高揚感。

まずは嘲弄するように相手の右腕を斬りおとしてやる。
あまりの力に下の海まで裂けて神話を再現する。高揚感。

今なら不可能などないと声を大にして叫ぶことができる。


「ハッハーーーー!!コイツはいい、最高にハイってやつだ!」


思い通りに、むしろ思った以上に動くこの身体はなんと具合のよいことか!

もう片方の腕も斬りおとして無様に這う悪魔を見て高らかに哄笑する。
憎々しげにこちらを見上げる視線も興奮剤の一種だ。たまらねえ!


意識の赴くままにまたもう一つ、わざと急所を外して悪魔をいたぶる。
くぐもった悲鳴が天上のオーケストラのようで、うっとりと目を閉じた。

縦横無尽に地下を駆け、悪魔の鼻先に舞い降りる。
驚いたような間抜け面の瞳には半ば異形に変化した死神が映っていた。今度は違和感。


「・・・・・・・・・!」


いつの間にか首元に回されていた細い手がなくなっている。
そういえば、いつからだ?の重みが感じられなくなったのは、どこから?

押し寄せる焦燥感に彷徨った視線は赤い池から伸びる人間の手を捕えた。
何本もの黒い手がを取り込もうと海から生えては引き摺りこんでいく。もう腕しか残されていない。


「ッ・・・・」


魔に蝕まれていた思考回路が途端に覚醒する。
普段の限界を振り切った動きはとっくに彼女を振り落としていたのだ。そしてそれに気付きすらしなかった。

まだ波打つ水面に浮くあの丸い石材に降り立ち、の腕を引っ張り上げるが予想以上の重さに顔を顰める。
いつの間にか悪魔化は解けてしまっていた。今の半魔の力では助けられないかもしれない。

死人のようなの顔が、遠い過去に見た死に顔と重なった。


(俺は自分の力が足りないばかりに、また誰かを死なせることになるのか・・・冗談じゃねえ!)


渾身の力で身体の半分までを引き上げ、やっとの思いでの身体を抱きあげる。
睫毛が微かに震えて意識を取り戻そうとしている。まだ生きていた。

ほっと息を吐くよりも早く、あの悪魔が最期の力を振り絞りこちらに突撃をしかけようとしているのが見えた。

とっととトドメをさしておくんだったなどと後悔する暇も許されない。

半魔の俺ならまだしも、人間のはあの攻撃に耐えられるはずがない。
回避しようにもを連れたままの状態では完全に避けきれない。もしもそれがに当たったら?

あれこれ考えるより先に、小さな身体を自分の中に貝殻のように折り畳み衝撃に備える。


「くそ!死ぬなよ・・・・」


直後に襲い来る全身の骨が悲鳴をあげるほどの衝撃と激痛!
視界が赤と黒に点滅し、それでも腕の中のだけは手放さないようにと強く抱き締める。

そして悪魔の断末魔と共に、花火のように視界が白くはじけた。






































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あとがき。
なぜだろう、私のダンテは暴力傾向が強いような気がする。
バージルは暴言傾向が強いような気がする。

あれか、描いてる人間がドMだからか。

言い訳するとダンテはフェミニストですが、家族に対してはわりとそんな傾向だと思うのですよ。
バージルと喧嘩(ってレベルじゃない)しまくりですし。
女としては見られてないんです、まだ家族目線なんです。


いつの間にか2章タイトルはアリスネタ関連が多くなったのでもうそれで行こうと思います。
全部分かってくれる人がいると嬉しい、な!

っていうか主人公、思いっきり銃のこと忘れてますがな。いいのか?
あと前回書き忘れましたがアミュレットの退魔効果はアリスみたいに人間まじりだと効果を発揮できないみたいです。
じゃないとダンテも触れませんしね。


2010年 8月30日執筆 八坂潤
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